『ことりのオデット』
ケイ・フェンダー/文、やまぐちともこ/訳、
フィリップ・デュマ/画、冨山房1984年
思い出の一冊・・・と言われ、少し困りました。私は小さい頃、とにかく外の世界が大好きで、毎日夕陽が沈むまで、公園や近くの山(瓜生山)を走りまわっている、冒険心旺盛な子どもでしたから、そんなエピソードなら数々あるのですが・・・。
そんなわけで、私が“絵本”と心から向き合ったのは、実は娘が幼いときに本を読んで聞かせた頃と言えそうです。
昼下がりに娘と二人で長椅子に座り絵本を読む時間が待ち遠しく、本屋さんに出向いては密かにその“お楽しみ”を探すのもまた楽しみで、午後の絵本タイムに新入りの本を目にした時の娘の喜ぶ顔を見るのも楽しみでした。
中でも、挿絵家「バーナデッド・ワッツ」の温かみのある“絵”は私たちのお気に入りで、ワッツが描いた絵本(グリム童話が多い)を鑑賞しながら一緒に読んだものです。
そのうち本棚はちょっとした本屋さんの絵本コーナーのようになり、その頃から娘は自分で本を読むようになっていました。
小学校に入ったある日、めずらしく「ねぇ、ママ何か読んで!」と部屋に入ってきた娘に、私の本棚の隅にあったとっておきの一冊の絵本を読んで聞かせました。それが今日ご紹介する『ことりのオデット』です。
オデットという名は、おじいさんがつけた小鳥の名前です。舞台はフランスのパリ。
ある日おじいさんが、いつものようにチュイルリー公園を通り、地下鉄の通路にアコーデオンを弾きに行く途中、公園の大きな木の上の巣から、「クル、クル、ポトリ」と帽子の上に落っこちてきた小鳥のひながオデットでした。
それ以来、おじいさんと生活をともにし、夜ベッドで休むときも、朝食のときも、そして仕事に出るときも、いつもおじいさんの側にいて、またおじいさんもオデットを娘のように可愛がります。
少し孤独だったおじいさんとオデットとの本当の親子のような心のつながりは、おじいさんのアコーデオンの音色と歌声を変えていき、オデットはそのまわりを可愛くさえずり歌い、地下鉄通路を行き交う人々の心を魅了していきます。
やがてオデットが、大きく高い木の上に飛び立てるようになり、秋がきて木の葉の色が黄色くなると、南の国へ飛び立つ鳥の仲間がオデットを誘います。
オデットの成長とともにおじいさんとの寂しい別れが近づいて、このお話はクライマックスを迎えます。おじいさんはオデットのためならと、自分の手元からの“巣立ち”を見守るのです。
次の春がきます。オデットはパリに戻ってきましたが、どこにもおじいさんは見当たりません。ただ、帽子だけが高い木の上にありました。オデットはその中に巣をつくり、おじいさんがいつもアコーデオンで弾いていた曲を、今度はオデットがひな達に聞かせてあげるのでした。
“オデットの巣立ち”と、“自分の娘の成長”を重ね合わせるように、この絵本は私にとって当時を懐かしく思い出させてくれる思い出の一冊となっています。
挿絵も、パリの風景やレストランが淡いタッチで描かれた素敵な、心温まる絵本です。
文章 Ikuko先生