『ぐう ぐう ぐう』
文・絵/五味太郎、文化出版局1982年
「せんせい これよんで!」
今日も、子どもたちが絵本棚から持ってきた絵本は『ぐう ぐう ぐう』。
ブルー系のかわいい表紙。開くと、真っ暗な夜の海で、一匹の“くじらくん”がすやすやと眠っています。
夜があけても 「ぐう ぐう ぐう・・」
友だちがきても 「ぐう ぐう ぐう・・」
――子どもたちは、この「ぐう ぐう ぐう」と、繰り返されるリズム感覚が大好き。「ぐう ぐう ぐう」とともに、体を上下に揺すりながらしっかり一緒に口ずさんでいます――
カモメやさかなが来ても 「ぐう ぐう ぐう・・」
ガールフレンドがきても 「ぐう ぐう ぐう・・」
飛行機がぶっつかっても 「ぐう ぐう ぐう・・」
――絵本を囲んでみんなで合唱です――
雨がふっても、嵐がきても おかまいなしで 「ぐう ぐう ぐう・・」
岩にぶっつかって ゴッツン! 『やっと めが さめたー』
――みんな口をそろえてここのセリフを言います。ここは大好きなところです――
『なんだか いろんな夢を みたよ』 と、くじらくん。
そしてまた、ねむります 「ぐう ぐう ぐう・・・」
以前の『絵本通信』では、私の娘の幼少期に楽しく読んだ思い出の絵本をご紹介しましたが、今回はもう少しむかしにさかのぼりました。 勤務していた企業を退職後、幼稚園教諭の資格を通信課程で取る中で、年中ほしぐみ(現たんぽぽぐみ)で教育実習を行った頃がありました。その1ケ月間にいろいろな絵本を読みましたが、やっぱり子どもたち自身が大好きで、その要望に応えて何度繰り返し読んだ(遊んだ)かわからないという絵本が、この五味太郎の『ぐう ぐう ぐう』でした。
大人は絵本の中のストーリーや絵の美しさに心ひかれますが、子どもにとっては親や先生と、絵本を通してかかわりを持てること自体に喜びがあります。私も読んでいてとても楽しい。私が楽しんでいるから子どもたちも喜んでくれたのでしょう。
またこの本は、「ぐう ぐう ぐうー!」とみんな一緒に体を動かして読めるリズム感がいい。繰り返しの響きを子どもと共に歌うように楽しめます。これは、やっと動きまわれるようになったくらいの赤ちゃんから幼児まで、お母さんとお座りをして一緒に発音しながら楽しさを共有できます。
園での実習期間中、お庭で子どもたちとすべり台、うんてい、鉄棒をしているときと同じリズミカルな楽しさを味わえたと言える懐かしい思い出の絵本です。
美しい絵と、お話のリズムがいっぱい詰まった絵本は素敵ですね。
昨年のことになりますが、淡路島洲本市内にある煉瓦の紡績工場跡にできた図書館を訪れました。そこは確かに、絵本の量と広さ、また館内のシンプルなインテリア等によって、本当に素晴らしい「子ども図書館」と呼べるものでした。
一階フロアーを入ったところに「子ども用の絵本コーナー」がありました。たいへん広々としたスペースが設けてあり、各コーナーの隅には子どもが腰掛けられる柔らかな椅子が置いてありました。
ふと見ると、幼稚園児くらいの兄妹ふたりが、子ども専用の絵本カートを押しています。お気に入りの本を見つけては最寄りの椅子に座って、ふたりは真剣な眼差しで絵本に見入っているのでした。カートにはそうして選んだ絵本が何冊か載せてあります。きっと近くに住んでいて、よくその図書館を利用するのでしょう。
二人はお目当ての本を選ぶと、再びカートを押してカウンターの方向へすすみ、首尾良く借りる手続きをしていました。その大人びた様子が、普段あまり見たことのない光景だったので、あたかもスーパーで食材を吟味して購入する大人の姿と重なって、とても微笑ましく頼もしく見えました。
文章 ikuko先生
『パズル』
文・絵/ワイルドスミス、すぎやまじゅんこ/訳、らくだ出版1976年
私がこの図書館で目が離せなくなったのが、ブライアン・ワイルドスミスの『パズル』という絵本でした。
彼は1962年に、絵本界の栄誉ある「ケイト・グリーナウェイ賞」を受賞し、数多くの素晴らしい絵本を生み出したイギリスを代表する絵本作家。手にとったその本は、生き物や建物がページをすすむにつれて現れ、親子で対話をしながら子どもの心に色彩の美しさをしみ込ませることができるような感動の絵本でした。
ストーリー性のある絵本ではありませんが、ページをめくる度にその色の鮮やかさに魅せられて、確実に楽しい絵本タイムを過ごすことができると思います。
――― 動物は何匹? 絵の中のおかしなところを見つけてごらん。 一番好きな色は? ひとつおかしな時計はどれ? ―――
文章の問いに答えてすすんでいくと、そのお話と色彩のリズムがパズルをするように展開していきます。じっくりと一冊を読み終えたときには、子どもと一緒にクレパスで絵を描きはじめたくなるような強いインパクトのある絵本です。 著者自身が、『絵本とは、子どもに美しさを楽しむことを教え、自分が住んでいる世界の不思議さを知らせる生命の根源だという信念を私はいつも抱いてきました』と言っているように、ワイルドスミスの絵本はどれも、動物や植物、太陽や月など、自然界の美しさを明るい色彩で躍動感に満ちて描いています。私にとっても絵本の魅力は、やはり絵の持つ美しさと力強いリズム感だと思います。
娘の幼少期、絵の温かみに引き込まれていっしょに読んだ本に、同じくイギリス人のバーナデッド・ワッツの絵本がありました。バーナデッドはワイルドスミスに師事していたことを最近知って、絵本の中でのその魅力的な色彩の持つ両者のつながりに、やっぱり・・・と大きく納得しました。 「ワイルドスミス絵本美術館」が伊豆高原にあると知りました。一度行ってみたいと思うこの頃です。
文章 ikuko先生