『花さき山』
斎藤隆介/文、滝平二郎/絵、岩崎書店1982年
私は幼少時、比較的祖母といる時間が長く、いわゆる「おばあちゃん子」でした。しかし、大好きだった祖母は私が6才の時に他界し、今では思い出だけが胸のポケットに静かに残っています。
祖母はいつも座椅子にゆったりと背中をもたせながら私と向き合い、よく昔話を(物語だけではなく)してくれました。ですから自分で文字が読めるようになってから、よく読んでいたのが日本昔話シリーズ。当時はテレビも欠かさず見ていました。数々の昔話を通して、無意識に色々な大事なことを学んでいたように思います。
子どもの頃に出会った絵本を読み返してみると、心の奥深くに潜んでいた幼い頃の気持ちを思い出して、大人になった今の自分と比べてみたり…、自分の心の原風景に出会えるような気がします。
今回ご紹介する絵本は、『花さき山』。(皆さんもよくご存知かもしれません…。)祖母に代わって母が毎晩、私の枕元で絵本や素話をしてくれました。その中でもとても強く心に残っているお話です。
─祭りのご馳走作りのため、山に山菜取りに行ったあやは、やまんばに出会います。そしてその山は、優しいことをすると美しい花が咲くという、花さき山であることを知ったのです。
ちょうどあやの足元にも自分が咲かせた赤い花が咲いていました。その周りにも青や黄、緑などの色とりどりの花が咲きほこっています。「自分のことより人のこと」という健気さや優しさが1つ1つの美しい花になるという感動のお話です。民話風の文と美しい切り絵もすばらしい絵本です。
「あっ いま花さき山で おらの花が咲いとる。」
最後のページのあやの言葉です。この言葉があの時じーんと胸に響いたのを今までも覚えています。いつもどこかでだれかが見守ってくれている。そんな目に見えないものを信じる気持ちを強く持ち始めたのもこの頃からかもしれません。目に見えないものを信じる心が、清く、ひたむきに生きようとする力となり又揺ぎない自信となるように思います。
話を終えた母がこう続けました。
「人を傷つけてしまうと、折角咲いた花がすぐに枯れてなくなってしまうのよ。あなたはこれからどれだけ沢山の花を咲かすことができるのでしょうね。」と…。
今でもこの言葉を思い出す度、ハッとします。人としての生き方をじっくり考えさせられるあたたかい心の大切さを静かに説いた絵本です。
文章/Yumi先生