お山の絵本通信vol.52

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『こんとあき』
林明子/作、福音館書店1989年

[こんとあき

私が幼い頃出会ったであろう沢山の絵本たち。多くは残念ながら手元を離れ、タイトルやストーリーをすぐに思い出せない等記憶の中でも曖昧になってしまっています。そんな中なぜか忘れなかった本のうちの一冊がこの『こんとあき』です。

お話は、きつねのぬいぐるみの「こん」と「あき」という女の子が、古くなったこんを修理してもらう為さきゅうまちのおばあちゃんの所へ向かう、というものです。こんは人間と同じように話したり動き回ったり出来るとても素敵なぬいぐるみです。こんがリードをして旅をするのですが、途中電車のドアにしっぽを挟まれたり、犬にくわえられ、砂の中に埋められてしまうなど結構大変な目にあってしまいます。

この絵本を読んでいた頃の私は、きっとこんなに大変な目にあうこんの姿を見てハラハラしていたでしょう。それでもあき同様こんが口癖で言い続ける「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」にほっと安心させられていたに違いないと思います。

このお話に触れると、いつも「お互いが思い合うことの素晴らしさ」を感じ、考えさせられます。こんはあきが赤ちゃんの時からずっと見守り続けてきたので、無意識のうちに自分がお兄ちゃんのような存在であると感じているような気がします。だからどんなことがあってもあきを守ろうと体を張るし、自分がぼろぼろになっても「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」と言い続けてあきを安心させようとするのだと思います。一方のあきも、ずっと仲良くしていたこんをひとりで遠出させようとはしなかったし、はぐれても一生懸命にこんを探す姿がありました。一方通行ではない、“どちらとも”からとても優しい心を感じました。

お部屋で初めて紹介したのもこの絵本でした。私の好きな絵本を子ども達はどんな気持ちで聞いてくれるのだろう、ということがとても気になったからです。表紙を見せた時に数名「あ、持ってる。」と反応を示してくれました。読み進めていくと、ちょうどこんがあきに「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」と諭すところで、この本を持っていると言った一人の男の子が、「な? 優しいやろ?」と別の女の子に話していました。

本当に嬉しい瞬間でした。私が好きな絵本で大好きな子ども達から好評を得たこと、同じものに触れて素敵な気持ちを共有出来たこと、両方を感じて喜びが込み上げてきました。

この先も「先生」でいる限り、素敵な絵本に出会い、素敵な子ども達に出会い、その子ども達の気持ちに出会えるかと思うととてもわくわくしてきます。これからもどんどん絵本を通して素晴らしい時間を過ごしていきたいと思います。

文章/Kaori先生