お山の絵本通信vol.59

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ちいさいおうち』
バージニア・リー・バートン/作、石井桃子/訳、岩波書店1954年

私は幼い頃、木々や草花など緑がいっぱいの、自然が自然にある環境の中で育ちました。幼稚園の頃は子どもの足で大体2、30分の園まで、母や友達と雨の日も晴れの日も歩いて登園し、小学生になっても同じように今度は友達と幼稚園の隣の小学校まで歩き、綺麗な花を見つけてはよく道草もしていました。休み時間には『ジャングル』といわれている学校の裏山でアケビや木苺を取って食べたり、木を上手く使い秘密基地を作ったり、つるのように垂れ下がった木の枝にぶらさがり、まるでターザンのように遊んだり・・・本当にのびのびと過ごしていました。

今回ご紹介する『ちいさいおうち』という絵本はそんな自然の中で育った私が幼い頃によく読んでいたお気に入りの一冊です。

この絵本は緑いっぱいの丘の上でにっこり笑っている、ちいさいおうちの絵でお話が始まります。それから、ちいさいおうちの周りには春が来て夏が来て秋が来て冬が来て・・・そして、時がどんどん流れて、道が出来、車が走り、電車が走り、高いビルもどんどん出来て、ちいさいおうちのお顔はだんだん窮屈そうなお顔になっていきます。そして、高いビルに挟まれながら、ちいさいおうちは、田舎のことを懐かしく夢にみます。そんなある日、ちいさいおうちを建てた人の孫の孫のそのまた孫にあたる人が、ちいさいおうちに気付き、また元のような緑いっぱいの丘の上に移してくれます。そして、ピカピカに直してもらったちいさいおうちは、またとびきりの笑顔に戻り、満足そうなお顔でぐっすり眠る絵で終わります。

私はこの絵本が好きで、よく父や母に読んでもらっていたようです。自然の中で育った私には、ちいさいおうちの気持ちがよく分かり、自分がちいさなおうちになった気持ちで、ビルが増えると心配になったり、窓が割れると悲しくなったり、そして最後に元に戻った時にはとても嬉しく思ったりしていたのかもしれません。大人になって再び出会った時、正直内容はあまり覚えていませんでしたが、ちいさいおうちの周りの絵がどんどん変わっていったことや、とびきりの表情で笑っていたちいさいおうちの絵は、とても印象に残っていて懐かしく思い出しました。

大人になって読み返してみると、幼い頃には分からなかった自然の大切さや周りの小さな変化に気付く大切さなど、考えさせられるところがいっぱいありました。

便利になることを求めながらも、自然を残していくという事は決して簡単な事ではないと思います。でも、変わりゆく時の中であっても、子どもたちがいつも当たり前のようにおやまの途中などで『あっ!あさがおのつるがこんなとこまでのびてる!!』『はっぱのいろがかわったね!』など小さな自然の変化に気付き感動したりしている気持ちは、いつまでも変わらず大切に持ち続けて欲しいと思いました。

今ある自然の大切を感じることが出来る、そんな一冊です。

文章/Mami先生