『おひさまぷりん』
いしだひかり/文、たちもとみちこ/絵、ワニブックス2006年
今は一月冬の季節。風は冷たく灰色がかった空を眺めていると、何だか寂しい気持ちになってきて体も芯から冷えてしまいそうです。そんな中、雲間からそっと冬の太陽が顔を覗かせたら、一瞬にして辺りが明るくなります。太陽の下に出て柔らかな遠赤外線を浴びていると、体や心までもが優しくじんわりと温まり励まされたような気持ちになることがあります。
今回は、温かくぽかぽかした気持ちになってくる『おひさまぷりん』の絵本をご紹介します。美味しそうで思わず嬉しくなるタイトルです。子どもを持つ女優として活躍されている石田ひかりさん作で、絵は、映像、絵本、クラフト作家として近頃人気の立本倫子(たちもとみちこ)さんです。何と言っても明るく楽しい動物たちの絵は、ページをめくるのが楽しみになってくるほどです。
♪♪おひさまぷりん、ぽかぽかぷりん
どんな おあじがするのかな
まだかな まだかな おひさまぷりん
はやくたべたい おひさまぷりん〜♪♪
一年中色とりどりの花が咲き、心地よい風が吹いて、たくさんの動物たちが暮らしているここは「なかよしむら」。週の初めに、動物の子ども達は、栗の木ひろばで“おやつかいぎ”を開いて「美味しいおやつを作る」という決まりがありました。
ここで登場するのが、オカピ(キリンの仲間)のおかぴくん。お母さんがいつも作ってくれるおやつを紹介したいのですが、とても恥ずかしがりやなので、手を上げて発表する勇気がなかなか出てきません。
この日は、タヌキのぽんぽこ議長の司会で始まりましたが、「桃とバナナとパイナップルとたっぷりクリームのロールケーキ」「紅茶のシフォンケーキ」「たい焼き」「白玉あんみつ」「しゅわしゅわサイダーのフルーツポンチ」・・・など、たくさんの意見がみんなから出てきて大賑わい。
『今日こそ手を上げたい・・・』と真っ赤になって自分の気持ちとたたかっているおかぴくんの心に浮かんできたのは、いつもニコニコの笑顔で応援してくれるお母さんのこと。
『でも、言えない・・・』と心の中で葛藤していると、「お顔をあげて、おひさまに手をのばしてごらん。きっといいことがあるわ」と心の中にお母さんの声が響きました。そして、そっとおひさまに手を上げてみた瞬間、タヌキのぽんぽこ議長に、「はい、おかぴくん。どうぞ。」と当てられてしまいました。
「だいじょうぶだいじょうぶ」と言ってくれるウサギのうーたんの励ましもあり、とうとう声を出して「おひさまぷりん」の提案をすることが出来たのです。ひざがガクガクしました。みんなは、聞いたことのないおやつ、おひさまぷりんに大賛成です。
おかぴくんがおひさまぷりんの作り方を説明したあと、みんなで、うしさんにおっぱい、にわとりさんに卵のお願いをして材料を調達し、さとうきびのおさとうを煮詰めてカラメルも作りました。あとは、大きな型に流し込み、おひさまに任せてこんがりとびっきりのおひさまぷりんにしてもらうのでした。
おひさまが登場して熱でぷりんを焼いてくれている間、おひさまのために、みんな一緒に歌や踊りを続けました。
そうして出来上がったおひさまぷりんのお味は、人生最高のふわふわ、そして、おひさまの味がしました。おかぴくんは、みんなの美味しそうな顔を見ながら、心がじーんと温かくなってくるのでした。
なかよしむらが夕焼けに包まれる頃、栗の木ひろばにみんなのお母さん達がお迎えにきてくれる時間になりました。おかぴくんはお母さんに抱っこしてもらいながら、いつも見守ってくれるお母さんが、おひさまのようだと感じます。おひさまのお陰でこんがりと焼けたぷりんは、おひさまの味であり、またお母さんの味でした。いつもお母さんと一緒にいることや、お母さんが励ましてくれる言葉が大きな支えとなり、おかぴくんはこの先も益々成長していくのに違いありません。おかぴくんの満足げな様子を見て、お母さんも目を細めます。
なかよしむらで繰り広げられたぽかぽかと温かいこの絵本を読んだあと、家庭での母親とは、いつも家族を温かく見守り励ましてあげられる、おひさまのような存在であるのだと思いました。
文章/Ikuko先生