お山の絵本通信vol.76

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ちょっとだけ』
瀧村有子/文、鈴木永子/絵、福音館書店2007年

[kaisuiyoku

この絵本は、最近出会いたてほやほやなのですが、なぜか幼い頃の私を思い出させてくれたお気に入りの一冊です。

   『なっちゃんの おうちに あかちゃんが やってきました。』

で、始まるこの絵本。表紙の絵がとても優しく、ほんわか柔らかで思わず手に取りました。

妹が生まれて、お姉ちゃんになったなっちゃん。お姉ちゃんになった喜びと嬉しさ、そして『お姉ちゃんになったんだから…』と小さいながらも精一杯頑張る姿が描かれていて、絵本を閉じた時には本屋さんにいることもすっかり忘れて感動し、恥ずかしながらもうっかり涙していました。

私は3人兄弟の真ん中に生まれ、上には兄と下には妹がいます。この絵本を読んだ時、ふと妹が生まれた頃のことを思い出しました。私と妹とは歳が4つ離れていて、妹が生まれた時私は4歳でした。とっても甘えたで、いつも母にべったりだったこの頃の私は、母の入院で初めて長い間母と離れ離れで過ごしたと聞いています。母が入院している間は祖父と祖母のところで過ごしていましたが、病院に行くたび『帰りたくない!』と母にしがみついて、大変だったようです。

でも、お姉ちゃんになることはとってもとっても楽しみにしていたことを覚えています。

母と離れる時にあれだけ泣いて大騒ぎしていたので、母は内心『退院してからはどうなるかしら…』と心配していたようですが、意外にも家に帰ってからは、妹のおむつを持ってきたり、抱っこをしたりと、喜んでお世話を沢山していたようです。この絵本に出てくるなっちゃんのように、ちょっとだけお姉ちゃんで頑張ろうとしていたのかもしれません。

今から思えば、そんな風に“お姉ちゃん”で頑張れていたのも、母が『生まれたばかりの赤ちゃんはいっぱい抱っこしているから、その分…』と妹が寝ている時には、兄や私とたくさん関わり、妹と同じくらいたくさん抱きしめてくれていたからこそだったのかなあ、と感じています。新米お姉ちゃんの私には特に気をかけていてくれたようで、あの頃母にぎゅうっと抱きしめてもらった優しい記憶は、今でもぼんやり残っています。

赤ちゃんのお世話で忙しいお母さんを気遣って、いつもより“ちょっとだけ”お姉ちゃんで頑張るなっちゃん。“ちょっとだけ”が“いっぱい”になって最後には、お母さんに『ママ、“ちょっとだけ”だっこして…』とちょっとだけ、おねだりします。

   『“ちょっとだけ”じゃなくて いっぱい だっこしたいんですけど いいですか?』

お母さんのこの言葉がとても優しくて素敵で、何ともいえない温かい気持ちになりました。

私も幼稚園のクラスの中での“お母さん”として、またいつの日にかなる“お母さん”として、この絵本のお母さんのようにそして自分の母のように子ども達を優しさで、ぎゅうっと抱きしめられる女性でありたいと強く思います。

先日、この絵本をクラスのお友達が幼稚園に持って来てくれました。『あっ!!この絵本、先生も大好き!』とみんなで読みました。読み終えた後、子ども達は『“ちょっとだけ”がいっぱいやったなあ…』『でも、いっぱい頑張ってはったなあ!』と子ども達なりに色々と感じている様子でした。

“ちょっとだけ”せつなく、でも“いっぱい”優しい気持ちになれる、そんな素敵なおすすめの絵本です。

文章/Mami先生