『スイミー』
レオ・レオニ/作、谷川俊太郎/訳、好学社1969年
この絵本と出会ったのは、私が小学校の低学年の頃だったと思います。その頃は、たくさんの絵本の中の一つと思っていたのですが、高学年になってある出来事をきっかけに自分とスイミーが重なる部分が出てきて、この絵本を大切にしていたことを思い出します。
私は小学校4年生の時にソフトボールチームに入りました。2人の兄も小学校の時にやっていたこともあって、自分も4年生になったらソフトボールをやりたいという思いが強くなり始めました。ソフトボールチームは、4年生から入団することができ、男子チーム・女子チームに分かれていました。女子チームは、人数が少なく私たち4年生も6名が入団し、5年生・6年生も同じ人数だったと思います。その中で、監督やコーチからグローブのはめ方、ボールの投げ方、バットの振り方を教えてもらうことでキャッチボールやバッティングができるようになりました。4年生ではソフトボールの基礎を教えてもらい、5年生では試合の流れを教えてもらいました。
ソフトボールの楽しさを知る中で私は、6年生の1人の女の子に憧れを持ち始めるようになりました。その女の子は、守備がショートで打順が4番でした。試合には必ずヒットを打って得点を入れてくれました。その姿を見て、いつか自分も4番バッターになりたいな〜と心のどこかで思っていたことを思い出します。
6年生と共に少しずつ試合にも出してもらえるようになり、ソフトボールのおもしろさが分かるようになった頃、ある出来事がおこりました。それは、練習中に監督が私たち6名だけにものすごい剣幕で「もうやらなくていい! 練習に来るな!!」と言いました。穏やかで優しい監督の一言に私たち6名は驚きました。「どうしたら良いか自分たちで考えて来なさい」と言われ、その日から私たち6名の練習はなくなりました。私たちは、なぜ監督があんなことを言ったのか、全く気付きませんでした。練習がなくなって家で過ごしている時に、たまたま、スイミーの絵本を手に取り読みました。その時に、スイミーがきょうだいに言った言葉がとても心に残りました。
『だけど いつまでも そこに じっとしているわけには いかないよ。なんとか かんがえなくっちゃ。』
『みんな いっしょにおよぐんだ。』
『けっして はなればなれにならないこと。』
『みんな もちばをまもること。』
5年生ながらにして、この言葉に何か感じるものがあり、このままではいけないと思ったことを覚えています。皆で集まり、話し合いました。振り返った時に、練習中、私たちは「しんどい…疲れた…休憩したい…。」を連呼していたことに気が付きました。皆も思っているのに口に出していなかったことや、練習をするから強くなっていくことにも気が付きました。練習をまじめに取り組んで、皆と力を合わせて頑張っていこうと決めて、監督の前で泣きながら1人ずつ自分の思いを伝えました。私も泣きながら「ソフトボールがやりたいです。練習を頑張るから教えて下さい。」と言ったことを覚えています。皆の思いが監督に届き、練習を再開することができました。この出来事がきっかけに、私たち6名の気持ちは変わり、弱音をはかなくなりました。
誰か1人でもしんどくなったら「ファイト!!」「しまっていこーう!!」と声を掛け、励まし合って練習に打ち込んだことを覚えています。また、大好きなソフトボールができるようになって、練習の始まりには、グラウンドに向かって「お願いします。」、終わりには「ありがとうございました。」と心を込めて言えるようになりました。
6年生になり、打順と守備が発表され、監督から「山本は4番でキャッチャー」と言われました。憧れの女の子と同じ4番になれたことが、本当に嬉しかったです。一方で、キャッチャーは今までやったことがなかったので、不安な気持ちでいっぱいでした。その時、頭に浮かんだのが、
『そこに じっとしているわけにはいかないよ。』 『みんな もちばをまもること。』
スイミーの言葉でした。
そこから、“やってみよう!!”と決めて、キャッチャーの練習に励みました。ピッチャーとキャッチャーの2人だけの練習も続きました。ピッチャーの子は、練習が終わってからも家に帰って練習をしていました。その子の努力を知り、私たちも家でできるすぶりをやりました。1人ひとりが努力して頑張っていたこともあって、私たちのチームは強くなっていきました。ソフトボールの大会に出場すれば上位に入れるようになるまで成長しました。努力すれば、必ず結果がついてくるということは、このことなのだと感じたことを覚えています。最後の試合では、負けてしまい悔し涙を流しました。今まで負けても泣かず、5年生のあの出来事から1度も泣かずにいましたが、この日は涙があふれて大泣きしたことを思い出します。本当に悔しかったけれど、皆で力を合わせて頑張ることができたので、晴れ晴れした気持ちになったことを覚えています。
ソフトボールを通して、心も体も大きく成長し、努力する大切さや仲間の大切さを学んだように思います。今、思えば…優しい監督の厳しい言葉があったから、3年間ソフトボールを頑張って続けることができたのだと思っています。偶然、手に取った絵本のスイミーの言葉に支えてもらい、1つのことにおもいきり打ち込んだ少女時代でした。
今では、ページを開くとあの頃の自分を思い出すことができる思い出の絵本になっています。絵本と共に自分の思い出も大切にしていきたいと思っています。
文章/Noriko先生