お山の絵本通信vol.88

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ずーっとずっと だいすきだよ』
ハンス・ウィルヘルム/作、久山太市/訳、評論社1988年

「ずーっとずっと だいすきだよ」

このタイトルを久しぶりに見たのは、今から一年ほど前の本屋さんだったかと思います。表紙を見なくても、「あっ! あのお話だ!」とすぐに思い出すことが出来ました。私が小学校一年生の頃、『こくご』の教科書に載っていたこのお話を読んで、必死に込み上げてくる涙をこらえてきたことを懐かしく思いました。そして改めてこのお話を読んでみると、あの時と同じように涙が込み上げてきたものの、当時感じた悲しみだけでなく、何かを大切に思うという温かい心もしっかりと感じることが出来ました。

――男の子が生まれた時からずっと一緒に大きくなった犬のエルフィー。遊ぶ時も、寝る時も、何をするにも男の子とエルフィーは一緒でした。男の子はエルフィーのことが大すきで、もちろんエルフィーがいたずらをした時にはしっかりと叱っていた男の子。エルフィーのことを大切に思う気持ちがありながらも、家族みんなはエルフィーに対して「大すきだよ」という言葉をかけてあげることはありませんでした。何も言わなくてもエルフィーは分かっていると思っていたからです。

男の子がぐんぐんと大きくなり心も体も成長してきた頃、反対にエルフィーは年とともに太って、動きも鈍くなってきました。今まで一緒にしていたことが難しくはなりましたが、男の子は今までと変わらずエルフィーに優しく接しました。そして、今までは言っていなかった「大すきだよ」という言葉を毎日毎日かけてあげました。

そんなある日、男の子が目を覚ますとエルフィーは永遠の眠りについていました。家族みんなは心からエルフィーの死を悲しみましたが、男の子だけは毎日「大すきだよ」と言葉をかけていたので心は少しなぐさめられていました。男の子は、これから飼うかもしれない動物達に対して、きっと「大すきだよ」という言葉を伝えてあげようと心に決めたのでした。――

このお話は比較的短いお話ですが、大切に飼っていたペットの死、という命の儚さが描かれていたり、男の子のエルフィーに対する大きな愛、「大すきだよ」という気持ちを伝えることで沸き起こる温かい気持ちがしっかりと描かれています。

我が家にも、六年前から一匹のネコが家族の仲間入りをしました。名前は、『ここちゃん』といいます。ここちゃんが家に来るまではずっと鳥を飼っていたのですが、今まであまり接したことのなかったネコということで、私達家族も手探り状態から四人+一匹の生活が始まりました。ここちゃんはとても警戒心が強く、いつも玄関の下駄箱に入って身を潜めていましたが、家族みんなここちゃんのことが可愛くてたまらず、何とか膝の上に座らせてみたり、一緒に遊んでみたり…と、必死になって私達なりに愛情表現をしてみたものでした。ぎゅっと抱きしめたり、「ここちゃん大すき!」「可愛いここちゃん!」と毎日伝えたりすることで徐々にここちゃんも心を開き、甘えてくれるようにもなりました。今でもここちゃんは、家族みんなの心を癒してくれる大切な存在であります。

このお話を久しぶりに読んだあと、絵本を閉じて考えました。もしかすると、ここちゃんに対して抱きしめたり撫でてあげただけでは私の気持ちはしっかりと伝わっていなかったかもしれません。しかし、言葉で伝えることでその時の声の温かさを感じとってくれ、気持ちは伝わったのだと思います。

私はこの仕事をするようになってから、『言葉』をすごく意識するようになりました。子ども達の様子を見ていると、思っていることは沢山あるのに伝え方が難しくやっと気持ちの一部だけを言葉に出来たり、時には思っていることと反対の言葉を言ったり…。その言葉を聞いて、「今のはどう伝えれば良かったかな?」と一緒に考えることで徐々に理由を付け加えることが出来るようになったり、言い方を考えてから言葉にすることが出来たりという子ども達の成長が身近で感じられます。そんな子どもたちの姿を見て私自身も保育者として子ども達にどういうふうに物事を伝えようか、ということをよく考えます。それだけでなく、自分が親の立場になった時子どもに善悪やお約束をどのように伝えれば理解しやすいか、子どもが何か出来た時はどんなふうに言葉をかけて認めてあげようか…。実際その立場になれば今考えていることを忘れているかもしれませんが、沢山の言葉の引き出しから言葉を選び、子どもの個性、感性、やる気…いろんなことを最大限に伸ばしていきたいと思っている毎日です。

「ずーっとずっと だいすきだよ」

このお話を読むと、子どもや家族、動物など大切な人に改めて「大すきだよ」と伝えたくなるような、心を温かくしてくれる一冊です。

文章/Sae先生