お山の絵本通信vol.94

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『からすのパンやさん』
 加古里子/作、偕成社1973年

「好きな食べ物は何ですか?」と質問された時、私は幼い頃から「パンが好き!!」と答えていました。他にも好きな食べ物はありましたが、必ず初めに思いつく物がいつも決まって“パン”でした。こんなにも、自分がパン好きになるとは思いもよらず、何でこんなにパンが好きなんだろう…と考えるようになりました。そんな時に、私がパン好きになったことを思い出させてくれたのが、『からすのパンやさん』の絵とお話です。

この絵本のお話は、からすのパンやさんの家に4羽のあかちゃんが産まれます。からすのお父さんとお母さんは、あかちゃんを育てながら、パンやさんのお仕事をおこないます。あかちゃんのお世話と、パンやさんのお仕事の両立から、お店に出すパンが、焦げてしまったり、焼けていなかったりして、お客さんが減っていきます。それでも、お父さんとお母さんは、一生懸命に働きます。焦げたパンなどは、子ども達のおやつになり、そこから、他のからすの子ども達もほしがるようになります。お父さんとお母さんは、子ども達のために、おもしろくて素敵なパンを沢山作り、それをきっかけに、お店が大繁盛していくお話となっています。

私は、山や田畑に囲まれた田舎で育ちました。お店屋さんは数件しかなく、そのお店屋さんに行くのが大好きでした。1人で買い物に行ったり、祖父と一緒に行って、買ってもらうことが、お楽しみの1つでした。

製作をすることが好きだった私は、祖母に紙粘土を買ってもらい、その紙粘土を使って、いろいろな物を作り、ごっこ遊びをすることが大好きでした。遊びの中で、パン屋さんごっこを始めたことをきっかけに、紙粘土でパンを作るようになりました。長細いパン、丸いパン、ねじったり、小さくしたりと…本物のパンのように真似をして作ります。絵の具で色を塗ったり、クレパスで焦げ目を付けて、本物のように作っていくことがとても楽しかったです。絵本に出てくるようなパンをいっぱい作っていたことを思い出します。

出来上がった物は、スチレン皿に入れて並べたり、100円、200円と書いた値札を作って貼り付けました。私がお店屋さんになり、祖母と母がお客さんになってくれて、パン屋さんごっこをして遊びました。絵本にも出てくるような、「おやつのパンくださいな。」「はいはい。」「おやつパンおいしいね。」「どうもありがとうございました。」という、やりとりを私も祖母と母と一緒にやっていたように思います。当時の私は紙粘土で作ったパンを「本物みたいだね。」と言ってもらったことが、嬉しくてどんどん作っていき、紙粘土のパンを増やしていたことを覚えています。

何年か経ち、中学生になってから母がパン用の小麦粉を買ってきてくれました。それをきっかけに、今度は本物のパン作りをやってみたいという思いが広がり、母から教えてもらいながら初めてロールパンを作りました。実際にパンを作ってみて、時間がかかることや、生地を作ることがとても難しいことが分かりました。パン屋さんごっことは、違うな〜と思ったことを覚えています。

難しかったけれど、とても楽しく、いろいろなパンを作ってみたいと思うようになりました。そして、1人で生地の作り方を覚えて創作パンを作っていくようになりました。紙粘土と違って、本物は中身も考えなくてはなりません。あん、クリーム、ジャム、チーズ、ハム、たまねぎ、ソーセージ、コーンなど、沢山の材料を取り入れて、作っていきました。おやつパン、おかずパン、どうぶつパンなど種類が増えていくたびに、ワクワクしたことを覚えています。

作っていくことが楽しかったのですが、次第に…「おいしい!!」と言ってもらえることが、嬉しくなっていきました。祖母・祖父・母は「おいしいね〜。」と言ってくれるのですが、父と兄は「もう少し材料を入れた方が良いな!」「ちょっと焦げすぎじゃない!!」とコメントをしてくれたので、絶対に2人から「おいしい!」と言ってもらいたいという思いで、毎週末に作るようになりました。そして、2人から「おいしい!」と言ってもらった時は、本当に嬉しかったです。

作る楽しみから、食べる楽しみへ、そして食べてもらい「おいしい」と言ってもらえる楽しみに変っていたように思います。振り返ると、自分の成長と共に興味が広がっていたように感じます。パン屋さんごっこをきっかけに、パン作りを始め、パンが大好きになりました。

大人になった今でも、「好きな食べ物は何ですか?」と質問されると…頭に浮かぶのは、からすのパンやさんに出てくるような、おいしそうなパンです。

文章/Noriko先生