『もりのなか』
マリー・ホール・エッツ/文・絵、まさきるりこ/訳、福音館書店1963年
帽子を被りラッパを持った主人公の男の子『ぼく』が森の中へ散歩に出掛けます。そしてその森の中で動物たちが登場し、歌ったり、楽器を鳴らしたりしながら、その散歩についてきます。ラッパを吹くぼくの散歩に動物たちが次々と参加していくのです。みんなでピクニックをしたり、ハンカチ落とし、ロンドン橋落ちたなどをして遊んでいました。しかしそんな中動物たちとかくれんぼをして、おにになったぼくが「もういいかい」と目を開けると動物たちがいなくなっていて、そばには心配したお父さんがいました。お父さんに肩車をしてもらい「またこんど、さんぽにきたとき、さがすからね!」と動物たちに言ってぼくは帰っていきます。
私が幼い頃、家の近所に出来た新しい町の図書館。最初は新しく出来た場所に「まあ、行ってみよう。」と“試しに”という思いで行くことになりました。しかし、いざ図書館の中へ入ってみると一変。それまであまり絵本など手にとって読むことが少なかった私にとって見たこともない本がたくさん並んでいるその図書館はとても魅力的で、そして私を夢中にさせてくれました。その図書館に週に一度は通うようになり、この絵本と出会ったのは小学校低学年の時でした。毎月一回行われていた読み聞かせの会で読んでくれた中の一冊がこの『もりのなか』でした。最初この絵本の白黒の絵を見た時、失礼ながら「え〜!これは嫌!他のお話にして!」とわがままを言ってしまいました。そんな私に読み聞かせをしてくれるお姉さんが優しく「まあ、まあ、あさみちゃん見てて!今から素敵な場所に連れて行ってあげるから!」と言ってくれました。その言葉に子ども心に“そんなはずない”と思い少し頑なになっていました。しかしそのお姉さんはそこから何も言わず、ただただ読み聞かせに来た私たちの顔を優しく見つめながらお話を読んでくれました。そのゆっくりのんびり流れる時間の中でこのお話を聞きながら、私は『お姉さんが言ってた“素敵な場所”ってこの絵本の中の世界だったんだ』と気付かされました。そこから読み聞かせの会、そしてこの絵本が大好きになりました。
私にとって印象的なのは最後のお父さんが出てくる場面です。お父さんが森の中で動物たちを探しているぼくに向かって「きっと、またこんどまでまっててくれるよ。」と言ってくれます。それまで楽しく遊んでいた動物たちが急にいなくなり、寂しげであったぼくの後ろ姿が、そのお父さんの温かい一言でとても安心した後ろ姿に変化するところが大好きでした。絵本を見ているこちらもぼくになりきって一人になってしまって寂しくなったり、お父さんが出てきてほっとしたり・・・いろんな思いを感じながら食い入るように身を乗り出して見ていたことを思い出します。
この絵本を紹介するにあたって、とても久しぶりにお話を読みました。髪をとかすライオン、水浴びをするぞう、食べ物を持つくま、カンガルー親子、歳をとったこうのとり、さる、うさぎ・・・次々と登場してくる動物たちの表情、そして『ぼく』『お父さん』の表情にとても癒されました。それと同時に優しかったあのお姉さんの記憶も蘇ってきました。大人になって見ても、変わらぬこの絵本の魅力を改めて感じ、そして幼い頃の思い出が昨日の事のように蘇ってきて、とても温かい気持ちになりました。「え〜!」と否定的になった私にこの絵本の素晴らしさを教えてくれた図書館のお姉さんの優しいまなざしや、この絵本に出てくるお父さんの子どもの言葉に対する優しい言葉掛けが、私の心にいつまでも残っています。
ぜひ私の思い出と共に、このお話をこれからも子どもたちに伝えていきたいと思っています。
文章/Asami先生