お山の絵本通信vol.98

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『おはぎちゃん』
 やぎたみこ/文・絵、偕成社2009年

私は“おはぎ”が大好きです。あんこが入っているものも、きな粉のものも…。そんな大好きな“おはぎ”が絵本になっている! どんなお話なのだろう? とワクワクしながら手に取った一冊です。

おじいさんとおばあさんが縁側で食べていたおはぎがひとつ庭に落ちました。カナヘビがその下敷きになり、おくさんカナヘビがおはぎを転がすと、目と口がついている“おはぎちゃん”が誕生しました。カナヘビ夫婦は、かわいい赤ちゃんだと思い、“おはぎちゃん”を育てます。“おはぎちゃん”が人間の赤ちゃんのように感じられ、私は何度も何度も微笑みました。そんなかわいい“おはぎちゃん”にカナヘビだけでなく、庭に住んでいる、クモやミミズ、ミツバチ、チョウ、トンボ、テントウムシ、ミノムシ、ダンゴムシ、カエル、トカゲなどが自分たちでできる精一杯のこと、例えば歌を歌ったり、抱っこをしたりして愛情を注ぎます。“おはぎちゃん”って何て幸せ者なのだろうと思いました。

やがて、冬の季節が近づいた時、庭の生き物たちは冬支度に入ります。“おはぎちゃん”を放っておいて自分たちだけでは冬眠できないといろいろな方法を考えます。そんな中、庭の生き物たちが絶対に入らないという縁の下に“おはぎちゃん”は入ってしまいました。それも化け物が住んでいるとも言われている縁の下に…。私もドキドキしながら、どうなるのだろうかとページをめくっていきました。そして、そこで出会ったのは…ぼたもちさんだったのです。このぼたもちさんも、昔縁側から転がってきたということでした。このぼたもちさんに、“おはぎちゃん”はとても気に入られたので、冬眠の間面倒を見てもらうことになりました。

それから、雪がとけて春がやって来ると、「オハヨ」という言葉を覚えた“おはぎちゃん”はみんなを起こしに行き、また庭には一年が始まりました。

全体として静かな庭のお話ですが、おじいさんが“おはぎ”を落とすということによって、おはぎ自体が人間の子どものように扱われて日常生活を送っているような描写は、とてもユーモラスで、ほのぼのとした温かみを感じました。おはぎと生き物たちが共存することなど、ありえない世界が描かれていることもまた、おもしろい話となっているのでしょう。読み手がいろいろなことを感じ取るお話ではないでしょうか。

文章/Tomomi先生