お山の絵本通信vol.115

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『しんかんくんのパンやさん』
のぶみ/文・絵、あかね書房2008年

私はこの作者の絵本が好きです。10年前くらいから何となく知っていて、このお仕事を始めて絵本を沢山見るようになってから一方的ながら再会を果たしたのでした。子ども達が持ってきてくれたものだと『ぼく、仮面ライダ―になる!』などもありました。

この本を手にした当初は全く考えていなかったのですが、最近読み直してふと発見したことがありました。

簡単なあらすじとしては、新幹線のしんかんくんが、友達のかんたろうと一緒に幼稚園でパン作りに挑戦します。ところが、なかなか上手に作ることが出来ず途中でやめたくなってしまうしんかんくん。結構派手に「やだよう できないよう」と泣いてしまいます。でもかんたろうが優しく付き添い「大丈夫。出来る出来る。」と励まし、一緒に美味しいパンを作り上げて皆で幼稚園に素敵なパン屋さんを作りました、というお話です。

さて、一体何を発見したかと言いますと、お話の途中でしんかんくんが泣いてしまい、それをかんたろうが優しく励ますシ−ン、そこを見て幼稚園でのある場面と似ているなと感じました。それは今皆で頑張って取り組んでいる縄跳びです。初めに「さぁやってみよう!」と縄跳びを渡した時、さすがに出来なくて大声で泣いた子はいなかったですが、まだそんなに経験が無かったと思われるある子が、ジャンプはするものの縄を跳び越えることは出来ず、1回飛ぶ度に座り込んでしまっていました。やはり出来ないことを続けるというのは忍耐がいるもので、その子の表情もだんだんと曇っていきました。その日はなかなか楽しみきれずに終了し、後日今度は2人1組で挑戦しました。その日も同じように座り込んでしまいそうだったのですが、一緒に縄を使用するお友達に「次は○○ちゃんやで。頑張れ。」と励ましの言葉をもらったり、近くにいたお友達から「こうして跳んだらいいんやで。」とアドバイスをしてもらううちに、座り込まずとも少しだけ跳べる形に近付いたのでした!

パンのお話からは大分離れてしまいましたが、この縄跳び頑張り中の子と周りのお友達とのやり取りが、私にはしんかんくんとかんたろうとのやり取りによく似ているように思えました

周りのお友達も本当によく見ていて、本人よりも先に「先生! ○○ちゃんのことちょっと見てあげて! 出来るようになってはんねん!」と教えに来てくれたり、鉄棒においても繰り返し取り組んでいる前回りが出来るようになったお友達を見ては、自分のことのように驚き、笑顔で拍手を送るなどの姿も見られています。幼稚園の子ども達も「大丈夫。出来る出来る。」というメッセ−ジを行動に乗せて送ってくれているようです。切磋琢磨するとはまさにこのこと! と見守りながらしみじみ感じています。

自分の幼稚園の頃を思い出しますと、前回りはかろうじて出来たかな? でも縄跳びは確実に小学校に入って授業で使わないといけなくなるまでは全然跳べませんでした。どちらかと言うと慎重なタイプでしたので、運動については大体恐怖心などを拭うのに時間がかかりましたし、気持ちが前向きでは無かったのでコツを掴むのも遅かったと思います。でも、もしもこんな風に皆で継続して取り組めていたらまた違ったのかな、とも思います。もしかしたら少しくらい焦る気持ちになるのかもしれませんが、自分が出来た喜びを自分だけでなく友達も自分のことのように喜んでくれるというのが、何よりもパワ−になったことでしょう。そして今の子ども達もそのパワ−を感じ取ってくれていると信じています。

まだ始めたばかりですし、先ほど挙げた子も、周りの皆も頑張り中です。絵本のパンのようにその日に出来たり結果が表れる訳では無いですが、自分が諦めなければどんなことだって出来るようになる事、そして友達の励ましや温かい気持ちを自分の力に変えられる幸せをいつだって忘れずに取り組んでいきたいと思っています。

そしてそんな仲間のひとりとして、これからも子ども達の日々の歩みを見守り、苦労も喜びも分かち合い、過ごしていきたいです!

文章/Kaori先生