お山の絵本通信vol.129

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『スイミー』

レオ・レオニ/文・絵、谷川俊太郎/訳、好学社1986年

先日、つき組でメダカの観察をしました。グループごとにお机の上に水槽を置き、餌をあげて、じっくり見つめる子ども達。「静かにしてあげた方がいいなぁ。」などと呟きながら小さなメダカの世界に興味を持つ姿はとても微笑ましく思いました。そんな活動の後、「メダカと同じ小さい魚だ!」となんだか親近感を感じ、久しぶりにこの絵本を開きました。この絵本はお気に入りの1冊で、私が年長組の時に母に買ってもらい、今でも心に残っています。海の生き物たちが綺麗に描かれており、海の中の世界に引き込まれていくようなそんな絵本でもあります。

小さな魚の兄弟たち。みんな赤いのに一匹だけ真っ黒の魚。その魚がスイミーです。ある日、お腹を空かしたマグロが魚たちを狙ってやってきます。逃げ切れたのはスイミーだけ。スイミーは寂しくなりながらも、クラゲやエビなどの生き物達に出会いながら海の中を泳ぎます。しばらく泳いだところで隠れている兄弟たちを見つけるスイミー。そこでスイミーは大きな魚に立ち向かう方法を考えます。その方法とは、“兄弟たちみんなで力を合わせ、1つの大きな魚のようになること。”小さい魚たちは、気持ちを1つにして大きな魚を追い出すことに成功します。

私は、この絵本を初めて読んだ時、「みんなで力を合わすとこんなことまで出来るんだ。」と、幼いなりに気持ちを1つにする大切さを感じました。“1人でも欠けると物足りなくて、みんなが同じ方向を向いて頑張ることで大きなものになれる・・・。”私が今まででそのことを強く感じたのは、中学一年生から高校三年生の6年間続けていた吹奏楽部での日々の中でした。それぞれ楽器は全く違っていても、気持ちを1つにすることで1つの曲になります。中学一年生の時、初めての合奏で自分のパートを吹くと、その音が他の楽器のおかげでどんどん曲になっていった感動は今でも忘れられません。夏にはコンクールがあり、金賞という目標に向かってみんなで頑張りました。50名ほどの人数で息を合わすことは簡単なことではなく、練習に練習を重ねての毎日でした。でも、難しい分、みんなの息が揃い、曲になった時の嬉しさはとっても大きなものでした。技術の1つ1つも大切ですが、「1つになろう!合わせよう!」という気持ちを持つことが1番大事なことだったように思います。 

今、クラスでも“みんなの気持ちを1つに頑張ろう”という場面が沢山あります。俳句やお歌、運動遊びや運動会の練習など、どんな場面でも当てはまります。今年の運動会で年長児はパラバルーンに挑戦しました。みんなの息を合わせないとなかなか上手く膨らまず、子ども達も息を合わせる難しさを体感していたように思います。でも、「せーの!」の掛け声と共に、みんなで「1・2・3・4!」と数を数えながら息を合わせようと努力をしたり、1人1人がバルーンを離さないように気をつけたりと少しずつ息を合わすことが出来るようになりました。息が合った時にはみんなとっても嬉しそうでした。また、先日、年長児でクラス対抗のボール遊びをした時には、始まる前にそれぞれのクラスで大きな円陣を組み、気持ちを一つにしました。その時の子ども達の顔は本当に嬉しそうでキラキラとしていました。きっと子ども達も全員で1つになる心地良さを感じているのではないかなと思いました。お歌も同じです。全員で歌うから楽しくて気持ちの良いものなのだと思います。「みんなで気持ちを1つに」ということは、簡単なようで難しいことなのかもしれません。でも1人ではどうしようもないこともみんなでするとうまくいくことが沢山あります。私は、学生時代にそのことを強く感じ、そして今、先生として子ども達と過ごす中でまた改めて感じさせてもらっています。子ども達にもみんなで過ごす楽しさや力を合わす嬉しさを心いっぱいに感じてもらいたいです。

今回、「スイミー」という1つの絵本から“みんなで1つになること考えること”について考えることが出来、そして学生時代の気持ちを振り返ることが出来、嬉しく思います。

文章/Chinami先生