お山の絵本通信vol.136

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『おこだでませんように』

くすのきしげのり/文、石井聖岳/絵、小学館2008年

私が今回紹介させて頂く絵本は『おこだでませんように』という絵本です。7月7日の七夕様に心の底から思っている、あるお願いをする男の子のお話です。

主人公は小学生のぼく。ぼくはいつも怒られてばかり。妹を泣かせてしまった時も、友達とケンカしてしまった時も、可哀想な捨て猫を拾ってきた時も…。いつも先生やお母さんはぼくの気持ちも聞かず、ぼくが悪いと怒ってばかり。ぼくが何か言うともっと怒られてしまう。だからぼくは横を向いて何も言わずに怒られる。本当は “ええ子” になりたいぼく。お母さんへの気持ちも上手く伝わらず失敗して怒らせてしまう毎日。どうしたら “ええ子” になれるかな? ぼくは “悪い子” なのかな? そんなぼくが7月7日の七夕様にお願いしたこととは…。

この絵本を読んだとき、私は思わず涙してしまいました。“ええ子”になりたいけど上手くいかないぼくの不器用さ、七夕様にお願いしたほどの強い思い。そのお願いを見た後の先生やお母さんとの関わり。1つ1つのシーンに胸がとても熱くなりました。

そして、読み終わった時、ある日のこんな場面が頭に甦りました。登園し、喉が渇いたある子がお茶を飲もうとしますが、うっかりこぼしてしまいました。「先生、こぼしちゃった。」の一言がなかなか言えず、その子はじっとその場に立っていました。そのことに気付いた他の子が「○○くんがお茶こぼさはった。」と言いに来てくれましたが、その子がどうするのか見守りたく、他の子ども達にも「きっと自分から言いに来てくれるよ。」と伝え、一緒に見守っていました。少し待ってから、一度「どうしたの?」と聞くと「何にもないよ。」の一言。その後は周りをキョロキョロ見たり、お茶がこぼれて濡れている床や先生の方をじっと見つめたり…。もうこちらから声を掛けてもいいかな、でもきっと言いに来てくれるはずと心を鬼にしてさらに待つと「お茶をこぼしちゃった。」と言いに来てくれました。「自分から勇気を出し、お話してくれたことが嬉しかったよ。」と伝えると共に、「こぼしてすぐには言いにくかった?」と聞くと、「怒られるかと思った。」とお話してくれました。その時、私はハッとしました。普段の何気ない場面で、子ども達はこの絵本のぼくと同じように「怒られてしまう。」「どうせ…。」という思いを持っていたのかと思うと、本当に申し訳ない気持ちになりました。その気持ちを聞いたときに「言いにくかったね。ごめんね。これからは困った時はいつでも先生に言ってね。絶対に助けに行くからね。」ということをお話しました。その後日、再びお茶をこぼしてしまったその子がすぐに私の所まで来てくれ、「先生、お茶こぼしちゃった。」と真っ直ぐに言いに来てくれたことは本当に嬉しかったです。

私はこの絵本、そして勇気を出して一歩踏み出してくれたその子との関わりを通じて、子ども達がいつでも安心して自分の気持ちをいうことが出来るよう、もっともっと子ども達の心に寄り添っていきたいと思いました。 “自分の気持ちが言える” “その気持ちを受け止めてもらえる” というのは簡単なようで難しく、そしてとても大切なことだと改めて感じました。これからも大好きなおやまの子ども達と心を通わせ、1日1日を過ごしていきたいです。

文章/Yuuka先生