お山の絵本通信vol.151

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『魔法の夜』

アルブレヒト・リスラー/絵、ドミニク・マルシャン/原作、木本 栄/訳、講談社2001年

今は12月の半ば。子ども達の吐く息も白くなり、京都の北山方面の山肌は朝から美しい雪化粧をしています。さて、今年の冬はどのくらいの雪が降り積もるのでしょうか。この絵本のご紹介がいずれ皆さまの手元に届き、もう暫くするとクリスマスシーズンを迎えます。そんなことを想いつつ、本棚の隅にあった一冊の絵本を手にとりページをめくっていくと・・・。読み終えたあとはとても心が温かくなり、真心について思いを馳せるひと時がありました。ご紹介しますのは、あるクリスマスの夜のお話です。

* * *

しんしんと雪が降り積もるクリスマスの夜。絵の中には大粒の雪と街の灯り、そして家路を急ぐ人々の姿が色鉛筆画で描かれています。2ページ目をめくると・・・、老人がたった一人で道を歩いていました。家もなく、行くあてもない老人は、黙ったまま寒い雪の中をただまっすぐに歩いていきます。

すると、その老人の雪の足跡をたどるように、あとから一匹の小さな犬がついていくのが見えました。犬がつけている首輪には金色の星が光っています。老人はその犬に気がつくと、

「おや、どこからきたんだい? おまえもひとりなのかい?」

と、瞳を輝かせました。

雪が白く積もったもみの木の下で、老人と犬は一休みをします。少しのパンを分け合い、クリスマスの夜だからと、老人は昔から知っている物語を犬に聞かせてあげました。それから静かに歌も歌ってあげるのでした。

風がさらに冷たくなり、あまりの寒さから老人と犬は近くの小屋に駆け込みます。そして、静かに夜がふけていく中、ふいに、干し草の上に座っていた老人に犬が告げました。

「ぼくは実は魔法使いなのです。」

自分は魔法使いであること、そして、自分のような哀れな犬に対して親切にしてくれたお礼として、

「あなたの夢を叶えてあげましょう。」

と言うのでした。驚くとともに、すぐさま老人は答えます。

「私は昔から犬がほしかったんだよ。」

それは本当に老人がずっと望んでいたことでした。

犬は長い間黙っていましたが、やがて金色の星がついた首輪を外します。魔法を捨てて老人と一緒にいることを決めたのでした。

窓の外は雪がやみ、明るい星とお月さまが二人を照らしています。目を閉じて干し草に身をもたせる老人の腕の中で、首輪を外した真っ白な犬が安心するように眠りにつく様子が描かれています。老人の心優しさに対し、犬は魔法の力をなくしてもこの老人に自らを捧げ、共に生きることを決めた瞬間でした。この絵本の中で最も幸せな情景が、たった数色のみのシンプルな色使いで描かれていることにも感動します。

「人生は愛すること、そして、愛されることの喜びそのものです。愛は『与えること』で、一番良く表現されうるのです。」という、マザー・テレサの言葉が思い出されます。

そして、「受けるよりは与える方が幸いである。」新約聖書(使徒行伝20:35)にある一節にも心は及びます。

――― 受けるよりは与える方が幸いである。各自は惜しむ心からでなく、また強いられてでもなく、自ら定めた通りが全てである ―――

私が幼い頃、幼稚園で毎日唱えた神様の教えの一部ですが、老人と犬の心優しさ、互いに与え合う無償の愛を感じながら、小さな頃に唱えた言葉がすっと蘇ってきたのは自分でも不思議なことでした。

老人の願ったことは物質的な豊かさや名声を求めることではなく、信頼や安らぎの真心を共に通わせながら歩きつづけることでした。ここに神様のお恵みがあり、クリスマスの奇跡(魔法)がもたらされたのでしょう。

この絵本で伝えられるストーリーは、実際のエピソードからフランスの歌手によって歌いつがれてきたものです。犬とともに南フランスを旅したことが歌で語られ、歌い手がこの世を去ったのち、人々の要望により絵本として蘇ったのが本書だそうです。

私達の上にもこれから一段と寒い冬の季節が訪れます。子ども達を包みご家族で迎えられるクリスマスの日が、心豊かで幸せの時でありますようお祈りしています。
 

文章/副園長・Ikuko先生