『くんちゃんのはじめてのがっこう』
ドロシー・マリノ/作、まさきるりこ/訳、ペンギン社1982年
今回ご紹介させて頂く絵本は、北白川幼稚園の子どもたちのように、好奇心旺盛で真っ直ぐな心を持ったこぐまのくんちゃんのお話です。
今日は待ちに待った初めて学校に行く日。お母さんと一緒に歩いている途中に出会ったミツバチやビーバーに「きみも、がっこうへいく?」と聞いてしまうほど、くんちゃんはとっても嬉しそう。しかしいざ学校に着いてみると、あんなに楽しみにしていたはずなのに、不安や緊張で胸がいっぱいになり、思わず教室を飛び出してしまいました。こぐまのくんちゃんの、喜びが溢れてくるような気持ちはもちろん、ハラハラする気持ちや、そわそわしてしまう気持ちが手に取るように伝わってくる、そんな素敵な絵本です。
この絵本の中のくんちゃんが、私には子どもたちの姿に重なって見えました。子どもたちにとって幼稚園は沢山の “はじめて” を経験する場所です。子どもたちもくんちゃんのように、ドキドキする気持ちやわくわくする気持ちを両手にいっぱい抱えて、毎日を過ごしていることと思います。つき組では、9月末から縄跳びに取り組み始めました。園庭遊びの時にいつでも遊ぶことの出来る縄跳びですが、みんなで一斉に前跳びを練習するのは初めてのことでした。「さぁ、では跳んでみましょう。」と伝えると、子どもたちは一生懸命跳び始めます。しかし数分経つと、思い描くように跳べないもどかしさから「難しくて出来ないよ。」と縄を回す手が止まる子がいました。縄跳びだけに限らず、何事も最初から簡単に出来ないというのは当たり前のことです。なので私は、「初めは誰でも難しいよ、落ち着いてもう一度やってみよう。」と根気よく何度も練習が出来るように言葉を掛け、背中を押すようにしています。そうして繰り返し繰り返し頑張っていく中で、子どもたちの諦めずに練習した成果が実り、全く跳べなかった子も1回跳べるようになり、それが2回、3回と増えて、、、「先生出来た!!」と満面の笑みと共に嬉しい声が聞こえてきます。子どもたちの “初めて出来た!” の感動の瞬間です。それは私にとっても大変嬉しい瞬間です。今では9月末よりも自信を持って練習をしている子どもたちです。
全体を通して温かい気持ちになれる絵本ですが、私はくんちゃんの学校の先生のことが大好きです。くんちゃんが教室から逃げ出してしまった時、先生は咎めもせず、諭そうともせず、ただ教室で他の子どもたちと一緒に待っていました。くんちゃんが窓の外で中の様子を伺っていることをちゃんと分かっての行動です。先生は、くんちゃんがこの取り組みなら出来る! と思って窓から部屋の中を覗き込んだ時にやっと、あなたの座る場所はここですよと優しく言ったのでした。この場面から、事の成り行きを見守ることの大切さ、大人の物差しで測らずに、子どもの気持ちを尊重することの大切さを感じました。絵本の中のくんちゃんもそんな先生の言葉や姿に安心したのでしょう、明日はお花を持って小学校に行くんだと嬉しそうにお家でお話をするのです。毎日が初めてで溢れている子どもたちと、保育者として沢山の時間を一緒に過ごすことが出来ている今。私は子どもたちの目線に立って物事を見つめ、嬉しい気持ちも悲しい気持ちも沢山共感しながら、心が動く “はじめて” の連続を大事に積み重ねていきたいと思っています。
文章/Tsugumi先生