『はるとあき』
斉藤倫・うきまる/文、吉田尚令/絵、小学館2019年
今年の梅雨は、雨が続く日が多かったですが、木々は青々と茂り、ひみつの庭にて子どもたちと育てているトマト、ピーマン、キュウリといった夏野菜もどんどん大きくなり、お山にも本格的な夏が到来しようとしています。
今回は、季節のものが描かれている素敵な色合いの表紙がふと目に入った、心温まる『はるとあき』という四季のお話を紹介させていただきます。
このお話の主人公は、季節の“はる”。はるが目を覚ますと、ふゆの寒さがどんどん和らいでいきます。ふゆに「そろそろ交代ね」と別れを告げ、暖かいはるが始まります。沢山の花を咲かせ、生き物たちと素敵な毎日を過ごしていると、どんどん日が長くなり、いよいよなつがやってきました。交代の日に、なつはこう言います。「ようし、あきが来るまで頑張るぞ。」その時、はるは気付きます。「あれ? そういえばわたしはあきに会ったことがない。」あきがどんな子か気になったはるは、あきに手紙を書くことにしました。
あきに向けて手紙を書いたはる。なつに預けることにしました。それから時が経って、はるが目を覚ますと、ふゆがあきからの返事をはるに渡すのでした。こうして、はるとあきは、何度も手紙のやり取りを続けます。はるの知らない、あきの世界。あきの知らない、はるの世界。はるに咲く花、あきに咲く花、はるに生まれる生き物、あきになると出てくる食べ物、はるになると実る食べ物、あきに聞こえる虫の声…。色々な物をはるとあきは手紙で教え合います。何もかもがはるにとっても、あきにとっても知らないことで、とても素敵に思えるものばかりでした。
しかし、あきの素敵なことを知っていくうちに、どんどん自分がつまらなく感じてきてしまったはる。「私と話していても面白くないだろう。」と、あきに打ち明けます。すると、一年後に読むあきからの返事には、「はるとお手紙することで、自分にもいいところがあるって気付けたよ」とあったのでした。
私は、このお話を読んで、登降園中に子どもたちと話す好きな季節の話を思い出しました。「私は夏が好き。」「僕は冬がいい。」等と、最初は好きな季節が分かれている子どもたちでも、「夏になったらプールで沢山遊べるでしょ。」「カブトムシとか色々な虫も出てきていっぱい捕まえるのが楽しみ!」「冬になったら雪が沢山積もったらいいなあ。」「サンタさん早く来てほしいよね!」と、いつの間にかみんなでその季節ごとのエピソードで盛り上がっています。そんな子どもたちを見て、私はいつも色々な季節というものがあって良かったなと思います。
私は、どの季節が好きかと聞かれたら、秋と答えます。もちろんどの季節もその季節ごとの良さがあって好きなのですが、秋は、自分の生まれた季節で、それだけでなんだかわくわくすることと、涼しくて過ごしやすく、また、秋の空も大好きだからです。秋になると、幼稚園まであと少しという最後の大階段の頭上は沢山のもみじで覆われます。子どもたちは毎日そんなもみじのトンネルをくぐり、幼稚園に「おはよう!」と元気な声を響かせながら、到着します。現在は、青々とした緑色のトンネルですが、冬は、葉が落ちて空がところどころ見えるトンネルになります。時々もみじを見上げては「秋になったら、赤色のトンネルになるよね。」「綺麗なんだよね。」とお話している子どもたち。自然に囲まれた環境で、暑さや寒さを肌で感じるだけでなく、植物や景色、生き物を通して全身で四季を感じています。
幼稚園には沢山の生き物もやってきますし、様々な植物が育っています。子どもたちの大好きなダンゴムシがやってくると春が来たなと感じ、どんぐりが落ちてくるとこれからどんどん寒くなっていくなと思います。日々四季は移ろいでいきます。一日一日の自然との出会いを大切に、その時その時にしか感じられない思いを大事にして、これからも子どもたちとお山の幼稚園での実りある毎日を過ごしていきたいと思います。
文章/Mika先生