『星をかった日』
井上直久/作、架空社2006年
三鷹の森ジブリ美術館にて公開されている短編アニメーション映画『星をかった日』。この映画を作る前のスケッチ段階、作者が考えていた最初の形で仕上げられたのがこの絵本です。皆様は、画家 井上直久が描く「イバラード」という世界をご存知でしょうか。優しく発光するような鮮やかな色彩と不思議な遠近感で描かれるこの世界は、別世界のようでいて懐かしさがあり、まるで故郷を旅しているようなノスタルジーな気持ちにさせられます。そんな異郷「イバラード」を舞台に、市場で買った小さな星を育てるお話をご紹介します。
イバラードの季節は秋になりました。野原に涼しい風が吹き、畑にはカブが沢山できました。今日は街に市場の出る日。良いものを選んで車に積み込むと、街へと急ぎます。おおにぎわいの街市場では、山のドワーフこびとたちが様々な星を売っていました。「わたしのカブでかえるかな」と聞くと「うーん、すこしたりないねぇ」とドワーフこびとたちは言います。ですが、野菜好きな彼らは「そうか、それならこうしよう。この星が育ってカブができたなら、僕らをみんな呼んでおくれ」と星を譲ってくれました。家に戻り「大きな星に育つかな?」と畑に星をそっと放ち野菜と一緒に育てていきます。寒さに凍える雪の日にはぽかぽかのお日様があたるよう、春には水をやって苗を植えて、大切に大切に育てていきます。もう乗っても大丈夫なほど星はぐんぐんと育っていき、星にお家も建てました。そんな様子をドワーフこびとたちも星の下から見守っています。始めは畑にそっと放った星ですが、大きくなると共にどんどん上昇していき、ここはもう空の上、雪も嵐も平気です。遠くに海がみえ、屋根に登って網で魚をひとすくい。とれた魚と星の畑で収穫した野菜でスープを作り、ドワーフこびとたちを星に招待します。ドワーフこびとたちは「すてきな星になったねぇ」と歌い、「うれしい宵になったねぇ」と星も静かにまわります。数えきれない星の中の、ひとつの星の誕生のお話でした。
イバラードの世界観が好きで「こんな世界があったらな」「こんな風に星が誕生していたら素敵だな」と見ていたこの絵本ですが、幼稚園の先生になる前と後では、この絵本を読んで感じることが変わり、この絵本が自分にとってもっと近しく感じられるようになりました。まずはじめに、子ども達と大切に育てたこどもピーマンのことを思い浮かべました。私自身、野菜を育てることが初めての体験で、子どもたちと一緒に「美味しいピーマンに育つかな」と期待に胸を膨らませ、この絵本のように毎日水をあげて大切に育てました。ある雨の日に、傘をさして雨の幼稚園を探検していました。子ども達とひみつの庭に入ると、畑のピーマンの苗が雨で倒れていました。「ピーマンさんが倒れてる!」と発見した子ども達は、傘を置いて、雨に打たれながらも手を土まみれにして両手で優しくピーマンを植え直す姿が見られました。子ども達の行動や想い、また自然が私たちに与えてくれる体験の尊さを改めて感じた出来事でした。そして、このお話では、星を買うにはカブは足りませんでしたが、「この星が育ってカブができたなら、ぼくらをみんな呼んでおくれ」と、小さな子どもの「星を育てたい」という気持ちを大切にしたドワーフこびとたち。私もこんな風に子ども達の「やってみたい!」「挑戦したい!」という気持ちを汲み取って、支えていけるような人間になりたいと、この絵本を読むたび思うようになりました。「〜をしてみたい!」「〜てなんだろう?」など、子どもたちの中に様々な気持ちが生まれる幼稚園での日々ですが、その一つ一つを大切に捉え寄り添って、子ども達と共に成長していきたいと思います。
文章/Haruka先生