お山の絵本通信vol.177

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『くるみのなかには』

たかおゆうこ/作、講談社2017年

秋、幼稚園のお庭やひみつの森ではたくさんのどんぐりを見つけることが出来ます。「このどんぐり、音がなる!」とどんぐりを耳元で揺らしたり、「中は何が入ってる?」と殻を無心で剥いてみたり…。子どもたちと一緒に過ごす中で、関心を持ったことに真っ直ぐに目を向ける子どもたちのその姿には日々感心させられています。

 今回は、子どもたちと一緒に絵本の世界に入り込み、想像の世界を楽しむことが出来る、そんな一冊をご紹介します。

くるみのなかには、なにがある?

この読み手への問いかけから、物語は始まります。あまり馴染みがなく、何か詰まっているのではないかと思わせる、ぷっくりと膨らんだくるみ。それは、小さなネズミの裁縫箱だったり、小さな小さなおじいさんと小さな小さなおばあさんのお家だったり。そして、ページをめくるごとに大きくなっていくくるみ。そんなくるみに合わせるかように、私たちの想像の世界もどんどんと広がっていきます。そして、次はどんな世界が詰まっているのかと静かに期待を膨らませ、ページをめくっている間もわくわくとした気分を存分に味わうことが出来ます。また、耳を澄ませると、くるみからシャリーン、チリンと音が鳴ったり、カラーン、カラーンと聞こえてきたり。まるで、本当にくるみがすぐ近くにあるような気さえしてきます。そして最後は、“ もし、おともなくしっとりとおもかったら そっとつちにうめてごらん ”と土の中に埋めてみるのです。雨を浴び、光に照らされてくるみは少しずつ成長していきます。そして土の中から芽を出し、長い長い年月をかけてたくさんのくるみを実らせ、立派な木になるのです。やがてそのたくさんの実もポトンポトンと地面に落ち、物語はおしまいです。

私がこの絵本を初めて読んだとき、絵本の中に流れる静かな時間をとても心地良く感じました。また、物語と合わせて絵にも惹き付けられました。くるみの中の世界はとても細かく描かれており、絵を見ているとその中に入り込んでいくような感覚に陥ります。近くでじっくり絵を見ながら、子どもたちと「あれがある」「これがある」とお話しながら読むのもきっと楽しいと思います。実際に、クラスの子どもたちと一緒に読む時には、小さなネズミの裁縫箱の場面でお話が弾みます。この場面では針刺しや糸切りハサミなどが描かれており、「見たことある!」「これ知ってる!」とお話する姿や、「あれは、お洋服をチクチクってするんだよ」などと一生懸命使い方の説明をする姿が見られ、お話のやり取りも存分に楽しみます。そして、場面に応じた余白の大きさも、絵本の魅力をぐっと引き立てているようです。

この絵本は、私たちの毎日の中に想像の種がたくさんあることを伝えてくれているように感じます。物語のおしまいに落ちたたくさんのくるみは、絵本の世界と現実を繋ぎ、余韻を残します。絵本を読み終わったあとも、少しの間ゆったりとした時間が流れているのを感じるのです。また、この絵本を読むと、どんぐりを耳元で揺らしたり殻を剥くといった姿のように、面白そうなものや「なんだろう?」と不思議に思うものを発見したり、想像を広げている子どもたちの姿が思い浮かんできます。これからも、子どもたちの興味を一緒に楽しみながら毎日を過ごしていきたいと思っています。そして、この絵本を読んだ時に感じた、物語の世界に入り込むような時間を大切にしていきたいと思いました。

文章/Kaoru先生