お山の絵本通信vol.184

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ガンピーさんのふなあそび』

ジョン・バーニンガム/文・絵、みつよしなつや/訳、ほるぷ出版1976年

爽やかな風が吹く様子や川の水音が感じられるような柔らかな絵が描かれている絵本。夏の季節にもぴったりな一冊を紹介させて頂きます。

ある日、舟で出掛けたガンピーさん。するとそれを見ていた子どもたちが一緒に連れていってと言い出します。その後も次々に乗せてと今度は動物たちがやってきます。乗っても良い条件として舟の中でしてはいけないことをガンピーさんとみんなは約束したはずなのに、やがて子どもたちはけんかをし、動物たちは大騒ぎ。ついに舟はひっくり返ってしまい、水の中へ落ちてしまいます。しかし、それでもガンピーさんは怒るどころか、岸まで泳いで土手に上がったみんなをお茶に誘ってくれます。そして夜になり家に帰っていくみんなへ「また いつか のりにおいでよ」と言うのでした。

出てくる動物たちがだんだん大きくなるにつれて、舟に乗りきれるのかハラハラ。さらにガンピーさんが乗ってくるみんなに約束を伝える度に果たして守れるのかと読んでいてドキドキ。そして、次々とやってくる動物たちにいつも「いいとも。」と言って受け入れる姿、その結果水に落ちてしまうというハプニングが起こった後もそれに動じることのないゆったりとしたガンピーさんがとても魅力的で惹き付けられます。

私が子どもの頃通っていた幼稚園での活動中、「お手伝いをする!」と張りきって水の入ったバケツを運ぼうとしたところ、うっかりつまずいて水をこぼしてしまいました。さっき先生が「気を付けてね。」と声を掛けてくれたのに、私が急いだからこんなことになってしまったのだと気にしていると「大丈夫? いいのよ、いいのよ。」と先生は優しく言ってくれました。

その後も「もう一度運ぶの手伝ってくれる?」とも言ってくれ、私は急がず『ゆっくり、ゆっくり』と心の中で言いながら慎重に運びました。運び終えた私にさらに先生は「手伝ってくれてとても助かったわ。ありがとう。」と声を掛けてくれ、その温かな声は今でも覚えています。

また、以前クラスでなべなべそこぬけをしようとなった時、手を離さないという約束をし、始めました。しかし、人数が増える度に難しさも増して、ついに手が離れ、輪が崩れてしまいました。残念がっている子どもたちでしたが「もう一回やる?」と尋ねるとすぐに「やる。」と前向きな返事が返ってきました。またさらに「走らないでゆっくりしたら大丈夫ちゃう?」「次は絶対離さない。」などと次に向けて子どもたち同士で声を掛け合う姿がありました。そして再び行うと大成功。みんなで喜ぶことが出来ました。大人の立場としてはその都度「約束は『手を離さない』だったね。」などと言葉で伝えてしまいがちですが、改めて伝えなくても子どもたちはよく考え、分かっているのだということを実感した出来事でした。

約束を守ることはもちろん必要です。子どもたちがもし守れなかった時にそれを改めてしっかり伝えることも必要であると思います。しかし、それがすべてではなく、そういう時に何を第一に考えるのかということの判断も必要だと改めて教えてもらえる絵本でもあります。「約束を守らないとこんな大変なことになるんだよ。だから約束を守らなくちゃ。」と直接言葉で伝えなくても、きっとこの絵本を読む子どもたちは自ら気付くことが出来るでしょう。その気付きを子どもたち自身で大切にしていって欲しいですし、私も大きく受け止めたいと思っています。

文章/Asami先生