お山の絵本通信vol.192

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『たくさんのドア』

アリスン・マギー/文、ユ・テウン/絵、なかがわちひろ/訳、主婦の友社2018年

この絵本は私が最近出会った1冊です。一つ一つの言葉が心に響いてきた絵本でした。そして、この絵本を読んだ時、真っ先に思い浮かんだのは、幼稚園で過ごす子ども達の姿でした。

“きょうもあしたもあなたはたくさんのドアをあけていく そのむこうにたくさんのあたらしいことがまっている” という言葉で始まるこの絵本。“あなたはどんなひとになり いったいどこへいくのだろう どうやってこたえをみつけていくのだろう” と続きます。「ドキドキすることがあっても、挫ける日があっても、あなたはきっと大丈夫。自分自身でドアをあけていく力が必ずあるよ。」というようなメッセージが、優しい挿絵と共に、背中を押してくれます。

入園や卒園、進級など、節目、節目で子ども達は新しいドアをあけて一歩を踏み出しますが、この絵本にも書いてあるように、子ども達は “今日も明日も” 毎日毎日たくさんのドアをあけているなと思います。新しいお友達とお話が出来た、苦手な物を一口食べられた、逆上がりに挑戦してみた、折り紙で新しいものが折れるようになった・・・。書き出すとキリがないですが、どれも子ども達にとっては大きな一歩だなと思うのです。新しいお友達と話す前はドキドキするし、苦手なものを一口食べる前は気が乗らなかったり、初めてのことに挑戦する前は「自分には出来ない。」と勇気が出なかったりします。でも、一歩踏み出してみると、「あれ? 楽しい!」「あれ? 出来た!」と、初めて経験する楽しさや嬉しさを感じると共に、自分の持っている力に気づくことが出来るように思います。

以前、「私は手伝ってもらったら前回りが出来るの!」と張り切って教えてくれた女の子がいました。「1人では出来ないから先生持っていてね!」と話していたので、もちろん最初は手伝ったのですが、これは一人で出来るのではないかと思い、「〇〇ちゃん、ここまで自分で回ってごらん。」と提案してみたのです。「それは出来ないの。」と最初は挑戦しなかったのですが、「大丈夫、1回挑戦してごらん。」とやり方を伝えながら励ますと、勇気を出すことが出来、一人きりで回ることが出来たのです。「やった〜! 出来た!」と、その後から何度も何度も一人で回るところを見せてくれるようになりました。嬉しい気持ちはもちろんですが、出来た瞬間は、「え! 一人で回れた・・・!」と、驚いている表情が印象的でした。自分が一人で出来るなんて! と本人もまさかの展開だったのかもしれません。この絵本の中に、“あなたはまだしらない じぶんがどれほどつよいかを” “じぶんのなかの とほうもないちからを あなたはまだしらない” という言葉が出てきます。子ども達の可能性は本当に無限大だなと思います。「大丈夫、きっと出来る。」と、子ども達一人一人の持っている大きな力を私達が信じることが、子ども達がドアをあける後押しになるのではないのかなと改めて思いました。

ドアはいくつもあって、答えも一つではありません。自分自身を振り返ってみても、今までいくつものドアをあけて進んできたのだなと思います。お母さんと離れることに涙をしていた幼稚園の頃、初めて習い事にチャレンジしたいと言った時、大切な仲間と部活動に打ち込んでいた学生時代、将来の道を決めた時。その時は、まだ見えない未来のことに、これで良いのだろうかと不安になったり、私に出来るのだろうかとドキドキしたり。でも自分を信じて、周りの人たちを信じて、ドアを一つ一つあけてきたことで、その向こうの喜びや嬉しさを沢山感じ、今に繋がっているのだなと思います。この絵本を読んで、私自身、これからも新しいドアを沢山あけて前へ進んでいきたいなと思いました。

4月から新しい環境の中で日々頑張っている子ども達。これからも子ども達が自分の力を信じて、 “たくさんのドア” をあけていけるように、応援していきたいです。そして、一人一人が沢山の経験を通して、心も身体も大きくなっていくことがとても楽しみです。

文章/Chinami先生