お山の絵本通信vol.209

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ラヴ・ユー・フォーエバー』

ロバート・マンチ/文、梅田俊作/絵、乃木りか/訳、岩崎書店1997年

「すきなえほん:らぶゆーふぉーえばー

保育園の卒園記念として贈られた文集、そこには私の字ではっきりとこう書かれていました。

私が通っていた保育園では、午睡に入る前の時間に、先生がいつも絵本の読み聞かせをしてくれていました。ある日のその時間、先生が私に「好きな絵本選んでいいよ」とコソッと言ってくれた時、迷うことなくこの絵本を選び先生に渡したのを覚えています。あの頃の私は、この絵本の表紙の絵のタッチや雰囲気がすごく気に入っていて、卒園してからも、表紙の色味だけはずっと頭の片隅に残っていました。

大学生になってふとこのエピソードを思い出した時、そういえば内容はどんなものだったのだろうと記憶を辿るも、どうしても思い出すことができませんでした。そのもどかしさからいてもたってもいられなくなり、すぐに書店に向かってこの絵本を購入しました。

実際購入して手に取ってみると、なんとも言えない嬉しい気持ちが込み上げてきました。あのころ大好きだった絵本、大人になってからじっくりと表紙を見ると、本当に絵が綺麗だなと改めて感じます。水なのか空なのか、美しく青くある空間の中で、母が子どもを抱いて横たわり、母子はともに穏やかな表情で眠っています。よく見てみると無数の星のようなものがキラキラと輝いており、その先には地球でしょうか、美しく輝く惑星も見られます。そうそうこの表紙と思いながら思い出を噛み締めたのを覚えています。

さて、肝心の内容について、この絵本は、あるお母さんが、産まれたばかりの赤ちゃんを抱っこして優しくあやしている場面から始まります。赤ちゃんを抱っこしながら、お母さんはこう歌うのです。

           アイ・ラブ・ユー いつまでも
           アイ・ラブ・ユー どんなときも
           わたしが いきている かぎり
           あなたは ずっと わたしのあかちゃん

原作ではこう歌います。

           I'll love you forever
           I'll like you for always
           As long as I'm living
           My baby you'll be.

この歌は、この絵本のテーマのようです。時が経つにつれ、この赤ちゃんもわんぱく盛りの2歳のぼうやから反抗期真っ只中の9歳の男の子へ、そして思春期真っ只中のティーンエイジャーの少年を経て大人へと成長していきます。その成長の様々な節目で、お母さんは子どもに日々悩まされます。しかし、どんな時であっても、お母さんは夜になると必ず、子どもが眠っている部屋に行き、子どもが眠っているのを確認してから、子どもを抱っこしてこの歌を歌います。その表情はとても慈愛に満ちています。やがて、お母さんも歳を重ね、歌うこともままならなくなった時、今度は大人になったその子どもが、お母さんを抱っこしながらこの歌を歌います。そして、お母さんが眠りについた後、今度は自分の赤ちゃんを抱っこしながらこの歌を歌う場面でこの絵本は終わります。たとえ世代が変わろうとも、親が子どもを思う気持ちは受け継がれていく様子が最後に描かれています。

今改めてこの絵本を読むと、私は家族に対しての感謝の気持ちがより大きくなりました。幼いころからの自分を振り返ってみると、よく病気やけがをしていて、家族はそのたびに私を病院に連れていってくれました。小学生になると素直になれず反抗的になったり、地域の人まで巻き込んで迷惑をかけてしまったり、周りの人への感謝を忘れて傲慢になったりなど、数えきれないほどの苦労をかけてきました。そのたびに家族は正面から向き合って話をしてくれました。また、私が悩んでいる時には、無理に話を聞きださず見守ってくれている時もあったそうです(当時そのようにしていたのだと、私が成人してから聞きました)。そして家族は、そんな私の進む道を応援し、いつも見守ってくれていました。親が子どもを思う気持ちというものが明確にどんなものなのか、私にはまだわかりません。それでも、家族との思い出を振り返ることで、それがどのようなものかを想像することができます。

幼稚園で子どもたちと日々過ごしていると、子どもたちの様々な姿に、家族が子どもを思う気持ちをみます。子どもたちの持ち物1つ1つにある名前シールや、座布団、コップ入れ、タオル、スモックやアップリケ、上靴、そしてお洋服など、子どもたちはいつも「この恐竜見て!」「この車かっこいいでしょ!」「新しい帽子!」と、嬉々として私に見せて教えてくれます。昼食の時間にも、「ママが入れてくれたの」「ぼくこれ好き。おいしいよね!」と言いながらお弁当を見せてくれます。中には、お弁当を開けたときに、満面の笑みで私にお弁当を見せてくれる子どももいます。また、多くは語らずとも、いつもお気に入りのものを肌身離さず持っている子どももいます。言葉には出なくても、心はきっと嬉しい気持ちや満足した気持ちで満ち溢れているのだろうなと、表情を見るだけでその思いが伝わってきます。日々このような子どもたちの姿を見ていると、家族が子どもを思う気持ちは、海よりも深く山よりも高いものなのだと強く感じます。

この絵本をいつか子どもたちと一緒に読めたらと思っていますが、読み手である私が涙を堪えきれなくなりそうなので、もう少し先になりそうです。私が保育園に通っていた当時、読み聞かせをしてくれた先生はどんな思いでこの絵本を読み聞かせてくれたのか、もしタイムマシンがあるのなら、ぜひその時に戻って聞いてみたいものです。

文章/Ayano先生