お山の絵本通信vol.211

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『いのり』

まつむらまさこ/絵・詩、平澤真希/作曲、至光社2020年

10月に入ったある日の早朝 、珍しい鳥の群れが竹藪の上で鳴いている声で目が覚めました。どうやら何十羽かの群れで、キュルキュル、グルグルと辺りに声が響き渡るほどさえずっています。鳴き声からするとこれはムクドリの仲間かな? もしかすると南の国へと移動する渡りの群れの声なのかも... と想像しました。

調べてみると声はどうやらコムクドリで、京都では春と秋に旅鳥として通過する渡り鳥であることと、秋の渡りの時期は8月中旬〜10月上旬頃だとありました。本州中部以北で夏鳥として繁殖し、冬はフィリピンなどで越冬する鳥で、渡りの時期には公園の木の実などにも群れをなして飛来する姿が見られるとのこと。まだ薄暗い未明のために姿は見えず声だけでしたが、偶然にも遠い国へと飛んでいく鳥たちのことに思いを馳せることのできた嬉しい朝でした。

子ども達を迎える時間帯にも聞こえる野鳥の声、木々の向こう側から差し込む朝の光、日中の青い空、大木の枝を揺らしながら通り抜ける風の音が聞こえる時、私たちとともに生きる自然の姿を感じて嬉しくなってくるのは私だけではないと思います。

この度ご紹介する絵本はたいへん言葉の少ないシンプルな絵本ですが、鳥のさえずりはもちろん、私自身が出会うたびに心を動かされ、生きている喜びを実感するものが各ページに出てきます。ストーリー仕立てではないこんな絵本が一つあっても、子ども達とのお話が膨らんでいくかも知れません。

絵本をめくると見開きいっぱいに絵が広がり、一言二言、タイトルのような短い言葉が添えられています(「ひかり」、「みずがながれる」、「かぜがふく」のように)。以下、それらの言葉を抜き出しながら、それぞれの言葉から思い浮かべる私の心象風景について括弧内にコメントします。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
 
ひかり

(朝、大木の木陰から差し込む太陽の光がまぶしいほど照りつけるとき)


みずがながれる

(流れてきた水がやがて小さな川になって、小さな音を
たてて目の前を流れているのを見る心安らかなとき)


かぜがふく

(昼間、心地よい風が木の葉を揺らしながら通りぬけているのを感じるとき)


こずえのうた

(こずえの中を小さな野鳥が飛びまわりながらさえずる姿を見つけたとき)


あおのそら

(海のようにも見える真っ青な高い空が見えたとき)


つちにうまれでる めぐみ すべて

(耕した土からちいさな命がでてきたとき)


きこえる だれかの いのりのこえ

(教会のオルガンの音、いのりの時間)


すべて ここに ここに

(土や木からの実り、鳥の声、風が通りぬけるとき)


ひろがる みちる いのち

(人びとの交わり、自然からの恵みの世界に生かされていると感じたとき)


すべて ここに

(実りの時が与えられたよろこばしいとき)


ここに

(こずえの中から強く射し込む、確かな太陽の光があるとき)
 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


日常をふりかえり、私がいちばん嬉しいと感じるときはいつだろうと考えると、それは、一日の始まりに木々の合間から差し込む太陽の光を浴びながら、笑顔いっぱいの子ども達を迎えるときかもしれません。

温暖化の影響で季節感が大きく変動している今も、大地に生きてこうして自然からのメッセージを受けとめ、耳を傾けながら過ごせることは私たちにとって幸せ、安らぎにほかなりません。自然の驚異に不安になることもありますが、太陽の光、風の音、小鳥のさえずり、青い空など、自然からの安心のメッセージがあることに改めて気づき感謝したいものです。

文章/Ikuko先生