『もりのへなそうる』
「ぼか、おにぎり だあいすき。
ぼか、おにぎり たべたいなあ」
――わたなべしげお作、やまわきゆりこ絵、
福音館書店1971年
「でっかいたがも」
「へなそうる」
「かくれんぼ」
「かにとり」
幼稚園で、一番好きだった先生の読んでくださった本で、家でも、大人という大人をつかまえては、せがんだことを憶えています。いま開けてみると、あれ、四話でおしまい? もっとつまっていたような…と、思えてきます。
おにいちゃんの言葉なら、何でもくり返すみつやくんと、そのみつやくんに続く、へなそうる。そして名脇役は、お母さん。そのお母さんのような気持ちで、あの年長組の時の先生は、読んでくださったような気がして、今では懐かしいです。
お母さんは、リュックサックに「しょくりょう」をつめこんで、男の子二人を送り出してくれます。私にも年子の弟がいたので、本の中で、同じ物をそろえてくれるお母さんは、とても身近に感じられたものです。
そして、サンドイッチ、たらこのおにぎり、チューインガム、それにドーナツ。毎回、一種類ずつ、ちがって登場する「しょくりょう」には、なんとも言えない魅力を感じたものでした。それはへなそうると同じ気持ちでした。見たこともないものを、口に入れたくて、よだれが出てくるおかしなりゅうと…。
ふたりは、てをつないで かえりました。
ふたりのせなかの りゅっくさっくが、
ゆうひで まっかにみえました。
今日がいつまでも同じようにあることを、信じて疑わなかったあのころの夕日。「明日また読もう」と思っていた本のことを、いつの間に忘れてしまったのでしょうか──でも、こうしてたくさんのへなそうるを背にしながら、私の影法師は、大きくなっていったように思います。
「だいじょうび、だいじょうび」
友だちの姿は、最後に見たときのまま、年をとらないものです。 あのシマシマの「たがも」だった生き物は、ずっとあの後ろ姿のまま、森にいるようにさえ思えてきます。
そしていつまでも、リュックの中身を、覚えてくれているようにも──どんな「しょくりょう」をつめこんで、どんな中身の私だったかも。
文章 りょうま先生