今号の山びこ通信(2013/11/1)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『イタリア語講読』(担当:柱本元彦)
『ニュー・シネマ・パラダイス』で有名な(ほとんど枕詞ですね)ジュゼッペ・トルナトーレ監督の<小説> La migliore offertaを引きつづき読んでいます(あともう少しで終わります)。
これを映画化した作品『鑑定士と顔のない依頼人』の日本公開が12月に決定し、タイミング良くこの<小説>の邦訳が、京都の人文書院から出版されることになりました。
講師にとってはまさに一石二鳥と申しますか、受講生からの指摘などで誤訳にも気づき、一石三鳥分の値打ちはありました。来月11月には書店に並ぶでしょう。タイトルはもちろん映画と同じ『鑑定士と顔のない依頼人』になります。
こういったことは重なるもので、同じく11月にもう一冊、一年半ほど前にこの講読で使用したことが縁になって、本が出ます。フェデリコ・ゼーリの『わたしの好きなクリスマスの絵』という小さな本、大人の絵本のようですが、美術史家ゼーリのいわばエッセンスのような趣きもあります。クリスマスの贈り物として素敵な選択ではないでしょうか(と宣伝しておきます)。
ところで『鑑定士と・・・』の主人公ヴァージルはどことなくゼーリ先生を彷彿とさせます。作品のキー・フレーズ、ヴァージルの言う「どんな贋作にも必ずどこか真実が秘められている」という言葉には、大鑑定家ゼーリも賛成するでしょう。いや、記憶違いでなければどこかでゼーリも同様の発言をしていました。いやいや、これはただ単に、西洋人の好きそうな<殺し文句>のひとつかもしれません。思い出しました・・・何か月か前に読んだスペイン人作家サフォンの『天使のゲーム』で、小説のミソを問われた主人公の作家は、「虚構のなかの真実」などと応えて言い逃れをしておりました。<真実>は、虚構に成長する種子としての出来事や感情かもしれず、虚構を思い描く情熱自体のことかもしれません。
ちなみに『天使のゲーム』は、ゴシックロマン仕立てのダシール・ハメットにドストエフスキーをぶちこんだような感触のある小説で、お勧めです。
(柱本元彦)