(2010年『山びこ通信』11月号巻頭文より)

日本人男子100メートル走世界新記録樹立!これは先日開催された第16回滋賀マスターズ選手権にて宮崎秀吉さん(100歳)が樹立した記録(100m29秒83)のことを指します(宮崎さんは92歳で短距離走を始め、その後続々と新記録を樹立されている方です)。

現役選手が100メートルを10秒以内で走ることも驚異ですが、100歳まで長生きし、なおかつ100メートルをこれだけのタイムで走ることは、まるで人間業を超えた出来事のように思えます。

この偉業を称えるにやぶさかではありませんが、一方では、スポーツの世界はやはり残酷であり、タイムだけに注目すれば、年齢が若いほど有利に違いない、ということを考えます。実際、どんなに優秀なアスリートにも必ず引退の日が訪れます。つまり、年には勝てません。

それに対し、年齢と共にパフォーマンスの向上が期待できるジャンルがあります。学問や芸術の世界がそうです。たとえば、誰にでも経験があると思いますが、文学作品を読む場合、若い頃にわからなかったことが年齢を重ねて理解できるようになります。

古文や漢文は10代の頃に学校で読んだままになりがちですが、10代の頃に読んで味わえることには限りがあります。20代、30代、それ以降の年代になって読み返せば、読み返すたびに解釈は深まります。

スポーツで言えば、練習をすれば、年齢と共にタイムが速くなるようなものです。これをそのままにしておくのはもったいないことです。語学の勉強にしても、必要に迫られなければ学生時代とともにジ・エンドという人が少なくありませんが、それは、上の喩えで言えば、青春時代に、体を一切動かさないようなものです。

若い時、体を動かしたくてウズウズするように、ある年齢に達すると、勉強がしたくてウズウズし始めます。「学びの青春時代」の訪れです。学ぶ意欲が湧き上がるなら、独学するもよし、あるいは、スポーツ同様コーチについて学ぶ、あるいは、同じ志を持った仲間と一緒に学ぶもよし、です。

独学は学びの王道です(独学する人には何も申し上げることはありません)。コーチについて学ぶなら、山の学校がおすすめです(少人数の対話型授業)。この秋学期から大人向けのクラスをいくつか新たに開設しました(漢文、英語、イタリア語、フランス語、経済学)。有志による学びの場としては英語の読書会もあります(高校生から一般の方までが参加)。

かく言う私も、ラテン語の読書会を山の学校の同志といっしょに週一のペースで続けています。一万行の詩ですが、ようやく残り数百行というところまで来ました。終わればまた最初からスタートします。70歳、80歳までこの読書会を続けることができるなら、現時点で見えていない「何か」が見えてくるはずで、今から楽しみにしているところです。

山下太郎(山の学校代表)