山びこ通信2021年度号(2022年2月発行)より下記の記事を転載致します。
『英語講読』A (ディケンズ『ボズのスケッチ』)
担当 坂本 晃平
本講座で読んでいる『ボズのスケッチ』には、実は ‘Illustrative of Everyday Life and Everyday People’ というサブタイトルがついていて、19世紀のロンドンでディケンズが日々の生活の中でよく会っていたであろう人々を生き生きと描き出しています。面白いのは、そうした人々を現代の日本でもみることができることでしょうか。これまで読んできた中でも、人が多いはずの大都会で人間関係から疎外され、毎日の生活を機械的に繰り返しながら孤独に生きる中流階級の労働者、ハレの日が来れば温かい心を取り戻し、日頃の不和を乗り越えて共に祝う家族、パーティーでお偉いさんをひたすらヨイショする僕みたいな野心家の青年、カノジョさんにちょっかい出されて喧嘩を売るものの返り討ちにあう僕の友達みたいなカレシ君、テレビの某コメンテーターみたいに論破芸を売りにしているものの肝心の中身はすっからかんの虚しい人間、エトセトラエトセトラ・・・が登場してきました。彼らの生き様が、時にはカミソリの様な鋭さを持つ、時には暖炉の様な暖かさを持つ筆致で21世紀の日本にも蘇ってくるわけです。ユーモアとペーソスとが絶妙に混じり合い、読んでいて楽しいことは折り紙付き。ただし英語が非常に晦渋である上に、たった一つの翻訳が誤訳だらけなのが辛いところ。例えば、Charactersというセクションの第1章冒頭には、
It is strange with how little notice, good, bad, or indifferent, a man may live and die in London.
とあるのですが、これを正確に解釈できる人は世の中英語業者多しといえどもそうそういないのではないでしょうか。とはいえ、丁寧で楽しい解説を心がけておりますので、目から鱗&口からタラコです。道場破り、待っています。