オンラインのみ 『ギリシア・ローマの歴史を読む』
テキスト:Arnaldo Momigliano, The Classical Foundations of Modern Historiography, Berkeley, 1990.
木曜 18:40~20:00 担当:大野 普希
<クラス概要>
このクラスは、「ギリシア・ローマの歴史を読む」というコンセプトのもと、ギリシア・ローマの歴史に関する古典的な名著を英語で読み解くことを目標にしています。第一の目的は英語を正確に理解して適切な日本語に翻訳することですが、その過程で、西洋古代史研究の現場の「空気感」に触れていただくこともできればと考えております。そのために、単に西洋古代の歴史を知るだけでなく、歴史を書き解釈するという、現代の私たちにも直接的なかかわりをもつ営みの意味について改めて考え直すきっかけとなるようなテクストを選定して講読を行ってきました。2023年度春学期からは、Arnaldo Momigliano(1908-1987)というイタリア出身の著名な歴史家の主著の一つ、The Classical Foundations of Modern Historiography, Berkeley(1990)を取り上げます。
2024年春学期は、第二章 The Herodotean and the Thucydidean Traditionを、冒頭から読んでいく予定です。
<テキスト>
イタリアのピエモンテ生まれの歴史家Momiglianoは、ギリシア古典期の歴史叙述の研究者として早くから頭角を現し、その後1938年にイギリスに渡ってからは、さらに活動の領域を広げ、古代からルネサンス期を経て近代に至るまでの歴史叙述や歴史方法論の展開を視野に収めた壮大な構想のもと、数々の研究を発表してきました。今回取り上げる著作は、1961-1962年にMomiglianoがカリフォルニア大学に招かれて行った連続講演をもとにしたものですが、著者には生前これを出版する決心がつかなかったらしく、晩年まで加筆修正を加え続けた結果、その死後にようやく出版された力作です。ギリシア・ローマの歴史家だけでなく、オリエントや聖書の歴史叙述の伝統も取り上げて、現代に至るまでの「歴史を語るという行為の歴史」を概観した内容となっているので、西洋古代の歴史だけでなく、古典の受容や思想史に関心のある方にも面白い本だと思います。
< 進め方 >
毎回、参加者には事前に担当範囲を割り当て、その箇所の訳文をつくってきてもらいます。用意していただいた訳文をもとに、参加者それぞれの英文理解を突き合わせ、より正確な理解に到達することを目指します。一つ一つの単語の意味や構文について皆で納得いくまで議論しながら少しずつ理解を深めていくことになるので、とてもゆっくりしたペースで読み進めます。最初は1回の授業で半頁くらいかもしれません。そのうえで慣れてきたらペースを上げたり、取り上げられている歴史状の出来事や人物について補足説明をしたりといったこともしていきます。このような進め方なので、歴史の専門知識がない方や英語を多読することに自信のない方でも参加大歓迎です。
【以下はご参考まで、2022年度までの内容です。】
<冬学期の内容について(2023-02-13更新)>
4月から、テキストM. Finley (1986), The Use and Abuse of History (2nd ed.), Londonの第1章“ Myth, Memory and History ”を講読中。冬学期で、第1章読了予定。
※テキスト購入の必要はありませんが、購入される場合はなるべく第2版(写真左)をご用意ください。
<春学期の内容について(2022-06-20更新)>
春学期は1回あたり半ページから1ページくらいのペースでテキス
毎回、
<春学期の内容について(2022-03-30更新)>
2021年度は、第7章 “ The Ancient Greeks and Their Nation ”を扱いました。
2022年度4月からは、第1章“ Myth, Memory and History ”を読んでいきます。(下記「内容紹介」を御覧ください)
Myth, Memory and History:内容紹介(2022年3月17日実施、ガイダンスより)
「…すなわち、詩人の仕事とは、実際に起こったことを語るのではなくて、起こりうるようなことを、つまり、ありそうな仕方で、あるいは必然的な仕方で起こる可能性のあることを語る、ということである。なぜなら、歴史家と詩人とは、韻文で語るか、散文で語るかという点において異なるわけではないからである(実際、ヘロドトスの著作は、韻文に直すこともできるであろうが、その著作は韻律があっても、韻律がない場合に劣らず歴史の一種であるだろう)。むしろ違いは次の点にある、すなわち、歴史家は実際に起こったことを語るが、詩人は起こりうるようなことを語るということである。それゆえ、詩作(ポイエーシス)は、歴史(ヒストリアー)よりもいっそう哲学的であり、いっそう重大な意義をもつのである。というのも、詩作はむしろ普遍的な事柄を語り、歴史は個別的な事柄を語るからである。
ここで「普遍的な事柄」というのは、どのような人にとっては、どのようなことを語ったり、なしたりすることが、ありそうな仕方で、あるいは、必然的な仕方で起こるのかということであって、このことこそ詩作は、登場人物に個々の名前をつけながらも目指しているのである。他方、「個別的な事柄」というのは、アルキビアデスが何をなし、どんな目にあったのかといったことである。」(アリストテレス『詩学』1451b)
詩と歴史を対比させたアリストテレスの有名な言葉を手掛かりにして、フィンリーは、古代のギリシア人にとって、歴史がどのような意義を持っていたかという問いを追求する。ギリシア人が詩と歴史を対比するのは、両者がともに過去を語るための様式でありながら、その性格を異にしていたからである。即ち、詩が語るのが時系列に囚われない神話の世界であるのに対して、歴史の語りは、あくまでも時系列の中で展開するものである。そしてギリシア人の歴史叙述の背後には、無時間的な神話の世界が広がっており、両者は断絶することなく、かといって一方が他方を飲み込んでしまうこともなく併存していた。現代人がこれを不可解だと思うのは、過去から未来に向かって一直線に伸びる、均質的な時間の観念を前提にしてかかるからである。ギリシア人の時間の捉え方はそのようなものではなかった。彼らには彼らなりの時間の捉え方があり、記憶の在り方があった。それはどのようなものであったのか。また、冒頭の引用でアリストテレスが述べた歴史の特徴 (限界)、すなわち歴史が普遍的なことを語りえないという問題を、トゥキュディデスはじめギリシアの歴史家たちはどのように超克しようとしたのか。歴史と神話、そして両者の共通の基盤である記憶について、古代ギリシア人の側に立って考察した論考。
<クラス紹介>
斬新な発想と緻密な分析によってギリシア・
本書に収められた12篇は全て独立しているので、
随時ご参加をお待ちしております!
授業内容・進め方(準備):
- 内容
本書はテーマ上独立した12編の論考からなるエッセイ集なので、冒頭から順番に読むことはせずに、受講生の皆さんのご関心に合う章から読み進めていきます。古代史の個々のテーマを論じたものから、歴史と他の学問との関係を考えるものまで、多彩なラインナップが揃っています。
最初に読む章だけは、私の独断で決めさせていただきました。それは、第7章 “The Ancient Greeks and Their Nation” です。「古代ギリシア人にとってギリシア人であるとはどういうことだったのだろうか?」 これはギリシア史を研究する中で私がずっと抱いてきた疑問です。本章はこの疑問に対して解答を与えてくれるものではありませんが、この問いについて考えるための多くのヒントや材料を提供してくれます。また、ギリシア史の概観を与えてくれる章でもあるので、導入として読むのに適した内容だと判断し、最初に取り上げることにしました。(事務注:第7章を、2021年度に扱いました。)
- クラスの進め方
輪読形式で、参加者が交代に一文ずつ英語を読み上げては、その場で日本語に訳していきます。一番重点を置きたいのは、英語を正確に理解することです。一つ一つの単語の意味や構文について皆で納得いくまで議論しながら少しずつ理解を深めていくことが目標です。そのため、とてもゆっくりしたペースで読み進めることになると思います。最初は一回 (90分) で1頁くらいかもしれません。そのうえで慣れてきたらペースを上げたり、取り上げられている歴史事象や人物について補足説明をしたり、といったこともしていきます。こういう進め方なので、歴史の専門知識がない方や英語を多読することに自信のない方でも参加大歓迎です。