子どもたちの遊びと学びについて、本園の考えを以下に述べます(文責:園長)。
子どもたちの園での活動
4つの時間:小学校教育の準備としての意味
子どもたちの園での活動は、1.屋内の設定保育(歌、絵画制作、お遊戯その他)、2.屋内の自由遊び(ブロック、積み木、粘土、絵本、折り紙など)、3.屋外の諸活動(運動遊び、自然体験等クラスで取り組む戸外活動)、4.屋外の自由遊びの4つのカテゴリーに大別されます。
幼稚園生活とはこの4つのカテゴリーの中で、いいかえれば4つの時間の中で生活することを意味します。
設定保育とは、このうち1と3に当たります。子どもたちは担任の先生の指導のもと、クラス単位で、または他のクラスや学年と一緒になって様々な活動に取り組みます。ときには苦手なことにも挑戦し、それを克服することで「やればできる」という自信を身につけていきます。
設定保育を「規律」の時間ととらえれば、子どもたちは規律の中で遊び心を生かすことを学び(下の「俳句と劇」の例をご参照ください)、また遊びの時間を通じて自由を謳歌するとともに、規律を尊重する態度を知らず知らずのうちに身につけていきます。
上で述べた四つの区分は小学校以上の集団教育を視野に入れると重要です。自由遊びはいつまでも好きなだけ取り組めるわけではなく、全体が一つになって活動する「設定保育の時間」と、個々に好きなことを追求する「自由遊びの時間」の二つの切り替えを日々学びながら、子どもたちは小学校生活を迎える準備を整えていきます。
どのような場面であれ、子どもたち一人一人が無理なく「自信」を培うように導くというのが本園の一貫した教育方針です。指示は最低限にとどめ、子どもたちが自主的に行動し、自ら思い描いた結果を達成できるようサポートしています。
屋内の設定保育: 俳句と劇
小学校以上の勉強において問われるのは「どのような姿勢で学ぼうとしているか」です。幼児教育は小学校以上の教育の土台となるものです。
私が担当している年長児の俳句の取り組みを例として、屋内の設定保育の狙いと意義について書きます。
本園では俳句の時間を設け、芭蕉や蕪村の俳句を材料とした「素読(そどく)」形式の学びの時間を大事にしています(週2回、1回15分)。これは文字を介在させない日本の伝統的な学びのスタイルです。
子どもたちは姿勢を正し挨拶を交わしたあと、黙想します。その後、耳で聞きとった俳句の言葉を5,7,5に分けて全員で復唱します。何度も声に出すうち、子どもたちは俳句をひとりでに暗唱し、やがて身の回りの出来事をテーマとし、自分で俳句を作るようになります。これを半年も続けると、一人で全員の前に立ち、覚えた俳句の言葉を声に出して発表できるようになります。
こうして日ごろから言葉との関わりを十分楽しみ自信を身につけた年長児たちは、幼稚園生活最後の「生活発表会」で劇に挑戦します。脚本は園長のオリジナルで、あらすじや言葉遣いの点で小学校中学年レベルの内容です。
大事なポイントは、このような「小学校的取り組み」に対して子どもたちが「遊び心」をもって臨んでいる点です。園庭での自由遊びのさい、ふと思い浮かんだ5,7,5の言葉を「はいく、できた!」と伝えてきたり、「大文字登山」(劇の発表後に行われる年長最後のイベント)の道中で、劇のセリフを最初から最後まで友達同士声をそろえて言いあうなど、日ごろから「自信」を見守られる環境下において、子どもたちは「遊び心」をいかんなく発揮します。
屋内の自由遊び: 自由の精神を味わう
子どもたちはものづくりが大好きです。各クラスには折り紙や画用紙をはじめとする材料がストックされ、はさみやのり、テープなどの道具も自由に使えるようになっています。季節によっては、森で拾った木の実や葉っぱなども、材料のストックに加わります。
めいめいが自分で作るものを決め、材料を選び、自分でイメージしたものを作っていきます。男の子は剣や手裏剣、女の子はかわいい小物やアクセサリーなど。子どもたちは、誰に命じられるのでもなく、自分で自分に「よし、やろう!」と言い聞かせて作業を始めます。作業に没頭する姿勢は大人顔負けです。子どもたちは、ものづくりを通して、自由の精神を味わっているのです。
「絵」を描くことも同様です。本園では、設定保育内ですが、森の活動で発見したものや、そのとき感じたことを絵に表す機会を豊富にもつようにしています。感動がさめないうちに表現することが大切です。クレヨンやコンテ、水彩絵の具を使ってオリジナルの「森あそびの絵」を仕上げたり、寝転んで空を見上げたことを思い出し、全員で大きな紙に「空の絵」を描き、部屋の天井に張ったこともあります。表現活動の絵画制作、うた、リズムバンドなどの音楽については常に担任と活動について密に話し合いながら新たなチャレンジ、技法を工夫しています。そのねらいや作品そのものの紹介は、育子先生のブログをご覧ください。
このような形で日ごろから「絵を描きたい」気持ちを無理なく満たしていくと、日ごろの屋内における自由遊びの時間にも、絵を描く子が増えていきます(もちろんそれを目標にしているわけではありません)。子どもは描いた絵を先生に見せに来ることがあります(家でも同様のことがあると思います)。絵は人間の心の憶測にかかわるものです。あれこれ批評せず、手に取ってじっと丁寧に見てあげるのが大切です。
ちょうどグライダーが滑走するときのように、子どもたちに対して一定の導きは不可欠ですが、いったん離陸したあとは、自由に大空を飛翔する喜びを子どもたちにたっぷり味わってもらいたいと願っています。屋内の設定保育(導き)と自由遊び(表現)の意義はここにあると思います。
屋外の設定保育: 仲間と一緒に体と心を動かす
子どもたちは、広い「園庭」で思い切り体を動かす時間が大好きです。好きな子にはもっと好きになれるように、さほど好きでない子には「体を動かすって楽しい」と思ってもらえるように、本園では定期的に講師を招き、運動遊びの指導を受けています。
最初はウォーミングアップを兼ねて、転んでもとっさに手をつくことができるよう、様々な仕方で体幹を鍛える遊びに取り組みます。続いてその日のメインテーマ(鉄棒、かけっこ、鬼ごっこ、ボール遊び、ドッジボール etc.)に挑戦です。体を動かすことを楽しみにながら、チャレンジする喜びを大事にした取り組みの連続です。
クラス担任はその日学んだ取り組みが習慣となるよう日々の設定保育の中に生かしていきます。その成果は目に見えて現れます。子どもたちは、自由遊びの時間にも鉄棒や縄跳び、リレーを楽しみ、年長児になると自分たちで二つにチームを分け、ドッジボール遊びに興じます。
次の動画をごらんください。自由遊びの一こまですが、子どもたちが思い思いの遊びに取り組む中、年長児が大縄跳びで本園新記録(1222回)を樹立した瞬間が収められています。
目に見える達成も、目に見えない心の満足やチャレンジ精神が子どもたちの日々の遊びにはいっぱいつまっています。
よく初めて園の見学に来られた方から、「怪我をしませんか?」と尋ねられることがありますが、運動遊びに取り組むようになってから怪我の類は皆無といってよいほどです。
「歩いての通園」に加え、園庭狭しと元気に遊ぶ子どもたち。心身ともに大きく成長し、「やればできる!」という自信を培っている毎日です。
屋外の設定保育といえば、ひみつの庭やひみつの森の活動がありますが、それらは「自然は友だち」のページやIkuko Diaryで詳しくご紹介しています。たとえば庭の収穫を部屋で調理していただくとか、森の活動を終えてすぐに部屋で体験を思い出して絵を描くなど、「屋外」と「屋内」を区別を意識することなく縦横無尽に保育が展開するよう工夫がこらされていることがわかるでしょう。
屋外の自由遊び: 一生の宝となる思い出の蓄積
「園庭」は屋外の自由遊びの時間に最もよく利用する場所で、ブランコや砂場のある「上の庭」と雲梯や鉄棒のある「下の庭」があります。バトンをもってリレーをするときは、まず「上の庭」でスタートし、階段を下りて「下の庭」の直線距離を走り抜け、再び「上の庭」まで登ってきて次の子にバトンを渡す…という形で「立体的園庭」を周回します。言葉で表しても伝わりにくいので、興味ある方は次の動画をご覧ください。ごくありふれた日常の「外遊び」の一こまですが、途中で年中児(青色帽子)のリレーのシーンが映っています。
屋内、屋外を問わず、文字通り子どもたちは自分のしたいことを追求し、遊びます。自然の懐に抱かれて、安心できる先生に見守られる中、子どもたちは自由を謳歌し、一生の糧となる思い出を蓄積していきます。
屋外の外遊びの例は、「おやまのえにっき」(写真のブログ)をご覧ください。ベストは園にお越しになり子どもたちの遊ぶ様子をじっさいにご覧になることだと思います。ぜひ一度園見学にお越しください。
自然にふれ自然から学ぶ
本園では、自然豊かな環境を最大限にいかした屋外活動の時間を大切にしています。とりわけ「ひみつの庭」や「ひみつの森」では、子どもたちは五感を働かせて自然に親しみ、自然から多くのことを学びます。
子どもたちは自然にふれ、自然から何を学ぶのでしょうか。答えは言葉で言い尽くせないほど多岐にわたるでしょう(このテーマに関しては、副園長による「自然は友だち」のページやブログ(Ikuko Diary)が詳しいので、そちらの記事をぜひご覧ください。答えがわかるというより童心にかえって何かを感じる自分を発見するはずです。
(文責)北白川幼稚園 園長 山下太郎