京都府で一番高い山をご存知でしょうか。皆子山という標高980メートルほどの山です。
大学時代、夏休みに友人2人とこの山にテントをもって登りました。朝から雲行きが怪しかったのですが、何とかなるだろうという感じで登っていきました。
体力に任せ谷沿いの道をずんずん登っていくうち、そろそろ頂上だというころ友人Kの姿が見当たりません。さっきまでいたのに。あたりの様子をうかがうと、かすかなうめき声が聞こえます。
まさかと思ってもう一人の友人Tと来た道を引き返すと、Kは顔をしかめてうずくまっています。そのふくらはぎを見ると、太ももほどにはれ上がっているではありませんか。そう、彼はマムシにかまれたのでした。
このときほど友人Tが頼もしく思えたことはありません。彼はボーイスカウトの指導者でもあり、見事な手さばきで傷口の応急処置をしました(このときの手当てが見事だったことを後で病院の先生に絶賛されました)。
気づくと雨が滝のようにふっています。Tは韋駄天のごとく山道を走って下りていきました。レインジャー隊を呼ぶ役目です。私はKを肩に担ぎ、ゆっくりもと来た道を降りていきます。
が、言うは易く行うは難し。滝のような雨がみるみるうちに川に集まり、増水してきます。水の中を勘を頼りに降りていくしかありません。
雨脚は弱まらず、川の水かさはどんどん高くなる一方で、とうとう腰近くまできました。もうだめだ、どうにもならない、と思ってふと前を見ると、下の方からオレンジ色のレインジャー隊が救助のロープをもってかけつけてくれました。もう安心。あとは専門の人たちに全部を委ねて山を下り、待ち構えていた救急車に乗って、堅田病院まで一直線。
手術も無事に成功。めでたしめでたし。今では笑って話せる昔話になりました。が、一歩間違えるとどうなっていたか。
山は怖い。腹の底から思い知らされた経験でした。
その後、山の上に置き去りにしたリュック類一式を取りに、再度友人とこの山に登りました。一歩一歩棒で前方の地面をたたきながら、慎重に、慎重に。
そのとき村の人に聞いた話では、毎年誰かがマムシにやられて命を落としている、とのことで、若気の至りというにはあまりに無謀な計画だったと思うことしきり。
この季節になるといつも思い出す昔の思い出です。