私は小学校1年のときにはじめてプールに入ったこともあり、水泳が苦手でした。最初の検定試験で5メートル泳ぐのがやっとでした。
当時、夏休みは学校のプールに「いかねばならない」決まりでした。私はこれが嫌でしかたがありませんでした。
一度学校に行ったふりをしてこっそり家に帰ろうとしたことがありました。ところが山の坂道を上るとその先に祖母の姿がありました。
祖母は私がずるをして戻ってきたことを瞬時に悟りました。「いっしょに学校に行こう」。そう言って私の手を取ると、プールサイドまでついてきて、水泳指導をされていた牧野先生に「この子は泳げません。どうかしっかり教えてやってください」と頭を下げました。
先生が丁寧に教えて下さった感謝の記憶以上に、私はそのときの祖母の毅然とした態度が心に残っています。
祖母は病弱で肺が片方しかなく、山道を登るのに二三歩進んでは休み、また二三歩進んでは休むのが日常でした。その祖母がせっかく山の中腹まで登っていたのに、もう一度孫の手を引いて小学校まで連れていくとは。
今は乳幼児から水泳に親しむ環境が整っているように思われ、園児たちと話をしていても「今日はプールがあるねん」とニコニコ話してくれますので、やはり水泳は小さいころからやったら苦手意識はなくなるのだろうと思います。
一方私自身はその後も水泳は苦手なままでしたが、苦手なりに努力をすれば上達することを学びました。25Mの検定に合格した時のこと、まだ余裕があったので私はターンして泳ぎ続けました。
そのまま無事50M泳げたので1つランクの上の級を認めてもらえたのですが、私の泳ぎ方はまったくの我流(犬かき)でゆっくりしか進みません。まさに周囲の空気も読まずに長い時間プールを独り占めしたわけですが、昔はゆっくり時間が流れていたのか、誰も文句も言わず、先生もせかされず、むしろみんなから「がんばれー」と応援され続けたので、よい思い出になっています。