幼稚園HPに手を入れています。昨年度最後の園長便りにもリンクしました。次のような内容でした。
生活発表会を終えて――皆で心を合わせ一つのものごとに取り組むこと――
生活発表会当日は、会場が手狭に感じるほどたくさんの保護者の方にご来場頂き、無事に発表会を終えることができました。これだけ大勢の大人の前に立つと、大人でも緊張しますが、どのお子さんも、力一杯日頃の練習の成果を十分発揮され、立派な演技・演奏をされました。あたたかい拍手を頂き、日頃コツコツ練習することの大切さ、全員で力を合わせて一つの目標に向かうことのすばらしさを、どのお子さんも胸に刻むことができたと思います。ご声援を本当にありがとうございました。
年長児はこの4月から小学校に入学されます。幼稚園時代に心を合わせて一つのものごとに取り組む経験が、小学校以上の学校生活を楽しみ、力を発揮される上でますます大切になってくるように感じます。私は年長児の劇の練習を始める初日に、次のようなことを子どもたちに申しました。「運動会のリレーを思い出して下さい。全員で一つのバトンを最後まで一生懸命走って渡しましたね。劇では、一人だけが頑張ってもよい劇はできません。全員が心を合わせて<台詞の受け渡し>を最後までやり遂げなければなりません。それが普通の駆けっことは違う点です。リレーをしているとき、自分の役目が終わったからと言って、観客席に戻ることはしません。最後の最後までクラスの全員で走っている人に声援を送ります。劇も同じで、自分が演技をするときも、ほかのお友達が演技をするときも、同じ気持ちで一生懸命練習に取り組んで下さい」と。
続いて、一年前の年長児の演じた「かさじぞう」のビデオを全員で見ました。せりふを覚えているお子さんもいて、懐かしそうに見ていましたが、最後に出演者が「やー!」というかけ声と共に幕が閉じるシーンを見て、「ぼくたちも、私たちもがんばる!」とやる気が最高潮に達しました。腹の底から全員で「やー!」とかけ声を出し、かっこいいポーズを決めよう!という連帯意識がこの1ヶ月間の子どもたちの練習を支えたと思います。また、そのお姿を各ご家庭で本当に温かく応援して下さったことを、日々の練習を通じて実感することがたびたびありました。きっと家で頑張って練習してきたんだなと誰もがはっきりわかるほどの「成長」が日々の練習の中で感じられるとき、クラスの全員から自然と拍手が送られました。そのたび、私は子どもたちの互いを支え合う心の温かさ、友情に感激しました。
運動会では、足の遅い、速いに目が奪われますが、リレーでは全員がひたむきにゴールを目指してバトンをつないでいく様子が大人の心を揺さぶります。劇の発表会についても、全員でひとつの舞台を作り上げるという意識が何より大切な経験・思い出になります。個々の足の速さを競うことや、個々の暗記力を競うことも、小学校以上の学校教育では子どもたちの「やる気」を引き出す仕掛けとして欠かすことは出来ません。しかし、学校教育の本質はそれに尽きるものではありません。
昨今、学校教育で幅をきかせる偏差値といった数値そのものは「比較」の材料でしかありません。数値だけに振り回される弊害は大学教育の内部まで浸食しています。偏差値に代表される様々な「比較」は確かに一つの事実に光を当てますが、それは同時に、それ以外の無数の人間的要素に目をつぶり、切り捨てる態度を意味します(身長を測るとき、身長以外のデータは無視します)。
日本では、「集団教育」が子どもの個性の芽を摘む原因とみなす言論がしばしば聞かれますが、本当の原因は「集団教育」にあるのではなく、集団の中での「比較」に一喜一憂する態度――子どもは当初それに無頓着でも、大人からその意識を刷り込まれていく――ではないかと私は考えています。ひるがえって、本園の生活発表会の本番で、子どもたちは日頃から「比較」され、叱咤激励された結果、力を発揮したのでしょうか。
人間には無限の可能性があると私は信じます。それを生かすも殺すも、周囲の大人の意識にかかっています。「社会」とは、人と人が力を合わせ助け合う仕組みのことであり、学校ではこの意識を大切に教え、育てていかなければならないと思います。そして、人間は本来、社会との連帯意識を持つことに喜びを感じ、最大限の努力を発揮できるように生まれついているのです。
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今回の生活発表会を終えて、いよいよ年長児から今の年中児に「劇の発表」というたすきが渡されます。本園では半世紀以上にわたって、全員が劇を演じて感動をともにする経験を胸に刻み、小学校にはばたいていきます。最後のシーンで「やっ!」と全員でかけ声をだしたとき、見ていた年少児、年中児はとてつもない大きな心のプレゼントをもらったと思います。この場面をかっこいい!と胸に焼き付けたのは、今回演技した年長児の1年、2年前の姿です。こうして、感動のたすきリレーはまた来年に向けて手渡されたのです。来年の劇では、今の年中児がまた立派に舞台をつとめてくれるものと確信しています。
また、最後のシーンで「やっ!」と全員でポーズを決めたときのかけ声は、やがて卒園される年長児のお一人お一人にとりましても、今後、人生の様々な局面で立ちはだかる困難にぶつかり、くじけそうになったときに、自分自身を支える心からのエール(かけ声)として、自らを奮い立たせてくれるものと信じます。