幼児教育の眼目は、子どもの自立を見守るということです。
本園のスタンスは、まさにそれです。
見守るということの意味は、自立せよと無理におしりを叩くのでもなく、機が熟しているのに自立させないでおくというのでもなく、ということです。
見守り、応援する。しかも、できるだけきめ細かく。
このことについて少し書いてみます。
本園は、歩くことから一日が始まり、歩くことで一日が終わる。みなで歩いて通う幼稚園です。
幼稚園は小高い山の上にあるため、自分の足で石段を登らなければなりません。
大人から見てさぞ大変だろうと思う道中です。
しかし、子どもたちは一人残らず手をつなぎ、笑顔で毎朝登園してきます。60年以上変わらないスタイルです。
これがもし、毎朝へとへとになって登園するとか、保護者のもとに苦痛で顔をしかめながら降園するなら、私たちはとうの昔にこのやり方は放棄したでしょう。
私たちはなにも体力試験の入園テストに課しているわけではありません。
「こういう時代だからこそ子どもには歩かせたい(=かわいい子には旅をさせたい)」とお考えのご家庭には全員お入り頂いています。
歩いての登園を日々繰り返せば、1)体力、2)忍耐力、3)人を信じる心の三つが自然に養われます。
「自然に」という部分が重要で、これが初めにのべた「無理におしりを叩くのではいけない」という考えにつながります。
毎朝子どもたちと山道を登るとき、これだけのことをやらないのはもったいない、といつも思います。
とはいえ、入園したての園児の全員が最初から笑顔で「行ってきます」ができるわけではありません。
未知の世界に飛び込む(=自立の一歩を踏み出す)ことへのためらいは、大なり小なり誰にでもあります(大人にも)。
それが強いと、「お母さん、ついてきて」となります(ときには涙混じりで)。
園は保護者と連携し、スムーズに「行ってきます」ができるよう万全を尽くします。
今年は3月の新入園児保護者向けの説明会にて、ケースバイケースにあわせてどのような対応を園がするのか、また、保護者にお願いしたいことは具体的にどういうことか、ご説明しました。
かつては、こどもがぐずったら後は園でなんとかして、というスタンスも見受けられましたが、今は逆です。
「もしもぐずるなら、幼稚園までついていってあげよう」と前もって心に決め、それを言葉で子どもに伝えるケースがあるように感じます。
悪い話ではないようですが、最初から無条件に親が園までついてきてくれるというイメージは、子どもの自立を遅らせ、つきそい期間が長引く場合があります。(それも一つの思い出に昇華しますが、そのことで保護者が自分を責める気持ちを強くもってしまうともったいないので、このようなことを述べています)。
今年の保護者会でお話ししたのは、「子どもには最初から最高の条件を示さない」、「教育にはある意味演技が必要」ということで、最初から「わかった、よしよし。泣くのならお部屋までいってあげる」ではなく、最初の一泣きに対しては、「わかった、じゃ、Aの場所までついていってあげるからね」と言うのはどうでしょう、と述べました。
子どもはAの地点で考えます。まだついてきてくれるのだろうか?と。そこで泣いたら次はBまで。そこで再び自問自答します。「一人で行けるかな?」と。この自問自答のチャンスが大切なのです。
さらにぐずればC(たとえば山の石段前)、次はD(石段を登り切った場所)、最後はE(部屋の前)まで、という具合に段階を区切るのがコツです、と。
ですから、園についていってはいけない、などという話ではなく、このように「きめ細かく」子どもの自立のチャンスを見守りましょう、という話なのです。
それぞれのチェックポイントで子どもは考えます。ここからは一人で行けるかも?と。そして行けたとします。じゃあ、明日はあそこからでも行けるかも?と。
で、実際明日がくると、前にできたことができなかったり。一進一退の毎日だったりします。
そのさい、親はあせらないことです。また、せかさないことです。
「なぜみんなできることがあなたはできないの?」という詰問だけは絶対に避けてください、とお願いしました。
以上、本園の自立を見守るスタンスの一端を書きました。
おかげさまで、今年は結果的に園舎の前まで付き添われるケースはほぼ皆無に近かったわけですが、それは「結果」であって、私たちの目指す「目標」ではありません。
かりにさまざまなお子さんとの交渉にもかかわらず、最終地点(=園舎)まで付きそう保護者が多かろうと少なかろうと、それぞれにいずれ思い出して笑える「物語」が熟成されていくのだと思います。
なんでも無条件によし、とするのではなく、少し子どもにがんばらせてみよう、というスタンスを保護者が会得されたら、お子さんの今後の成長の道のりにおいて、さまざまな場面で応用が利く経験になると信じます。
自立を見守り、応援する。
これからも保護者とともに、このスタイルでいきたいと思っています。