先日比較の功罪を書きました。
補足として自著から該当箇所を一部抜き出してご紹介します。
その意味で幼稚園に通知簿や成績表がないのは大事なことだと思っています。幼稚園で大切にするのは、一人一人の人間としての成長です。子どもたちが日々どのように集団生活を送り、自分自身の関心の枠を広げたか。また、諸々の課題を乗り越え、かけがえのない自分の物語を紡いだか。クラス担任は、そうした一人一人の成長の記録を言葉で綴り、月末に保護者あてにお届けしています。
私は教育における比較の功罪について、大人は今こそ真剣に考えるべきだと考えますが、競争の類を否定はしません。本園では運動会で徒競走やリレーを行い、勝ち負けをつけています。大事なことは、勝敗に一喜一憂することではなく、それぞれがベストを尽くせたかどうかです。かりに足が遅くても、走って転んでも、前を向いて最後まで走り切れば、それは立派な一等賞だと私は子どもたちに伝えています。
社会に競争はつきものです。学校教育もしかりです。その競争を否定して問題が解決するわけではありません。他人と比べて自慢したり、安心したり、卑下したりする態度に問題があるのです。学校の課題に対して、自分がどれだけ理解できているかのバロメーターとして数字による評価には意味があります。その結果が努力によってどのように変化していくのか。過去の自分と今の自分、さらには理想とする未来の自分の姿との間で比較を行うべきだと考えます。
大人も子どもも比較を自分自身の中で行えるようになれば一人前です。これができてこそ人として本当の自信がつくのでしょう。
一人一人の子どもの内面には様々な気持ちが渦巻いています。うまく言葉に出せずにいるそうした思いを察知して、ときに共感し、ときに励ます・・・。幼稚園の世界では、このしたやりとりが、一番基本的な、そして一番大事なこととして、あたりまえのように毎日行われています。このような「幼稚園的視点」に基づくきめ細かな対応があれば、学校に通う多くの子どもたちのストレスも軽減し、やる気も倍増するのではないかと思います。
かりに今の学校にそのような対応を望むことができなくても、親ができることはあります。今この瞬間から自分が変わればよいのです。どうしても「比べてしまう」自分を内省し、かけがえのない子どもの「物語」を大事にすること。変えうる余地は多々あるはずです。そして、子どもにとって、「あなたはあなたでいい、オンリーワンなのだ」というメッセージを一番言ってほしい人、それは親を置いてほかにいないのです。
子どもは受け身であり周囲の大人の接する態度で人生は大きく左右されます。
子どもの「物語」に耳を傾けるには、大人がキョロキョロせずまず自分の心の物語に耳を傾けることが一番大事だと思います。