「ゆっくりでも着実に」自分の力を信じて一歩一歩、歩いていく・・・。世の中どんどん「便利」になりますが、あえて「不便」に挑戦し、本当の「楽しさ」や「喜び」を手にする経験は、子どもだけでなく、大人にも必要なものと思います。
本園のカリキュラムについては、それぞれの先生が、初めてこの幼稚園を見てイメージした保育――この幼稚園だと、ああいう保育もこういう保育もできる!――を大事にして欲しい、といつも伝えています。それは、たとえば、山の緑に包まれた環境で思い切り体を動かすことを意味するかもしれません。
しかし、これとあわせて大事なことは、それぞれの先生が自分の子ども時代を振り返り、もっとも幸せを感じた経験は何なのか?このことを思い出し、保育に反映させる姿勢を持つことだろうと思います。
もっとも、このことは、先生一人一人の課題であるとともに、私自身の課題でもあり、また、家庭においては、保護者自身の課題でもあると言えるかもしれません。
「自分がもし子どもに戻ったら、体験してみたいことは何なのか?」と自問するとき、毎晩親に本を読んでもらって楽しかったという方は、ご自身のお子さんにもそうされるでしょう。逆に、あまり読んでもらわなかったという方も、ご自身のお子さんにたくさん読んであげることは自分の気持ち一つで可能です。
先日ある卒園児の保護者からうかがって嬉しく思ったエピソードがあります。
その男の子は幼稚園時代たいへん虫が好きでした。「お父さんも小さいころ虫がお好きだったのですか?」と質問しますと、とくにそれほどではなかったそうですが、お子さんが生まれ、一緒に過ごしているうちにどんどん昆虫に興味がわいてきて、今は二人で虫取り網をもってあちこちでいろいろな場所で虫取りを楽しんでおられるそうです。
「子どもの興味に心のピントを合わせるうちに、自分も大事なことを学ぶようになった」。そんなお声が聞こえてくるかのようです。
子どもに「~しなさい」というのは簡単ですが、子どもと「~しよう」と心を通わせることが子育ての(幼稚園においては教育の)大事な原点だと思います。
いろいろな事情で、子どもは子ども、大人は大人と線引きをしがちですが(その方が時間管理はなにかとうまくいく)、それによって得るものもあれば失うものもあると思います。
オール・オア・ナッシングの話ではなく、要はバランスです。
ときには立ち止まって、バランスがとれているか考えると良いかもしれません。