ホメロスにもツキディデスにも疫病の記述はあります。
ローマではルクレティウスやウェルギリウスの記述が名高いです。
私は自宅待機のこの機会を利用し、毎日少しずつウェルギリウスの記述(ノーリクムの疫病)についての注解を作って公開しています。
逐語訳だけ拾い読みすると、妙な日本語ですが、だいたいの流れはつかめると思います(まだ未完成ですが)。
最終行に565 tempore contactos artus sacer ignis edebat.というのがあり、言葉使いに鳥肌が立ちます。
「やがて(tempore)呪いの(sacer)火が(ignis)感染した(contactos)四肢を(artus)食い尽くした(edebat)」。
疫病を「火」に喩える視点は現代でも有効です。
「Stay home.家にいましょう」と言われる前に、家の外は目に見えない火事で燃えているのです。
そして、その火は手で触れても火傷もしないのです。
だから人間は油断するのでしょう。
「呪いの火」は巧妙です。
知らぬ間に体内に巣くい、最期は体を隅々まで食い尽くすのだ、と。
悪夢のような話ですが、ノーリクムで起きた疫病の悲劇の描写を通じ、ウェルギリウスはまるで2千年後の私たち人類に「Mane domi! Mane domi! ステイ・ホーム・ステイ・ホーム」と声をからして警告しているように思えてなりません。