本日4月の「絵本通信」(vol.9)をお持ち帰りいただきました。これは、毎月1回、園の先生に思い出の絵本を一冊ご紹介頂くものです。一般的な絵本の紹介・書評とは違って「先生の思い出の一冊」という点がポイントです。保護者ご自身の子ども時代の「思い出」に響く部分もありましょうし、親として本を読み聞かせる際のお気持ちと重なる部分があるかもしれません。ぜひ、子どもに本を読む楽しさの輪を広げていけたらと思います。
昨年度の「絵本通信」最終号を発行した後、次のようなご感想を保護者より頂戴しました。私たちのささやかな試みをこんなふうに受け取っていただき、ご家庭で本を読む楽しさが広がっていくのであれば、本当にうれしいことと存じます。ご本人の許可を得ましたので、謹んでご紹介させて頂きます。
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一年間、先生方ご自身の色々な思い出に残る絵本をご紹介頂き、今日のお便りに書かれておられるように、我が家では気になった本を買い求めたり、以前より人様から頂いておりました古本の中にその本を見つけたりして、そうかーと先生方のエピソード等を思い浮かべながら楽しむことができました。
私自身は父母から絵本や素話しを聞いた事はなく(農作業でそれどころではなかったのでしょう)小学校等では図書室というものがありながら、本を読む機会といえば、せいぜい夏休みの宿題の課題図書をそれこそ後書きや前書きなるものを少し読んでは嫌々本に接していた記憶があります。当時からきっとまわりには素敵な絵本があったのだとは思いますが・・・。
そんな私も、上の子ども達(もう大人に近い)が生まれ、保母をしていた姉の育児に習うべく、わけもわからず絵本の読み聞かせをはじめることになりました。そうして、毎晩、図書館から借りてきた本を子ども達と読み進むうちに、いつしか私自身が未知の本に出会う喜びを感じていました。
ある日、私が風邪か何かで寝込んでいるとき、その日は私に代わって主人が読み手ということになりました。お先に失礼と床についた私ですが、ただ一本調子に発せられる主人の語りに、妙に引き込まれ、眠るどころかお話の中にどんどん入り込んでしまったものです。耳から聞く楽しさをこのとき初めて体験したように思います。
本を囲んで子ども達に読み聞かせながら、気がつけば子どもはともかく、私自身が楽しめるようになっていました。そして、その楽しさはどうも強い伝染力があるらしく、子ども達はいつしか自ら本を選び、それを今度は親と共有の時間ではなく、一人楽しむということも覚えたようです。(もちろんマンガも同量ですが)。
私も今では絵本を卒業し、昔の私では考えられないような分厚い本を興味さえあれば読み通すことが出来るようになりました。自分自身の数々の経験より確かなものはないけれども、台所の一隅で様々な人たちと出会い一喜一憂出来ることは、この読み聞かせのおかげかなと子ども達に感謝しているところです。
お便りを読ませて頂き、うんうんと一言一言の言葉に納得しながら、思わず筆をとらせていただきました。なぜだかわからないのですが・・・。先生方にお伝えしたくなって・・・。ありがとうございます。
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上のお便りにもありますように、子どもは親に本を読んでもらうことが大好きですし、親にとっても子どもに本を読んであげることは楽しい経験になります。お父さんもお母さんも忙しい毎日と思いますが、子どもに「本を読んで!」とせがまれるかぎり、できるだけ読んであげるのがいいと思います。忙しいとつい「自分で読みなさい!」と言いたくなりますが、「忙しいの。自分で読みなさい」と言われると子どもは寂しいものです。そのうち「読んで」と言わなくなります。
小学校に入ると、学校側も読書習慣を子どもに身につけさせようとあれこれ工夫をされますが、本好きなお子さんは家庭で育つものです。アナウンサーのように上手でなくても、子どもは自分の好きな人に本を読んでもらう――それだけで大喜びします。家で本を読んであげる役はお母さんが多いようですが、上のお便りにもありますように、ぜひ、お父さんにも本の読み聞かせに挑戦していただきたいと思います。子どもは本を読んでもらいながら、安心して人を信じる気持ちを育んでいきます。
本が好きということ、それは、将来にわたって言葉を通じて人と交流する能力を高めます。そのきっかけは家庭にあります。どの本でなければいけないという問題ではありません。お子さんに「本を読んで!」と言われたら、「じゃあ何を読もうか」と受ける――それは「お母さん、大好き!」、「私もよ」と言葉を交わすのと同じ意味なのです。教育のチャンスはいつも身近なところにあります。
本の読み聞かせを通じて、できるだけ、子どもが胸に抱いている「幸せのイメージ」を大切にしていただければと思います。
平成16年4月30日 「園長だより」