子どもがつかまり立ちをし、やがて独り立ちをするとき、感動を覚えない親はいないでしょう。一人で歩けるようになったら、それは記念すべき出来事です。動物の中で人間ほど歩けるまでに時間のかかる生き物はいないと思います。それは、歩くことが人間にとって特別な意味を持つことを示唆しています。他方、手をつなぐこともそれに劣らず、否、それ以上に意義深い成長の証ではないかと思います。歩く生き物は多々あれども、手と手をつないで歩くのは人間だけではないでしょうか。二足歩行が可能になった人間は、自由になった手をもちいて様々なことに挑戦できるようになりました。立って歩けるようになって、人間は他人と手をつなぐチャンスを得たわけです。
年少児のとき「手をつないでもらう」立場だった年中児はいま「手をつないであげる」立場に変わりました。3月までの自分と4月からの自分は立場が180度変わります。この変化は大人が思う以上に大きいです。去年の入園当初よく泣いていたA君も、いまはしっかり年少児の手をつないでくれています。登園初日、涙する Bちゃん(年少)の頭をやさしく撫でる姿を見て、私は一年の大きな成長を実感しました。年長児も「自分がやらないとだれがやる?」という責任感を胸に秘めています。年中のときはどちらかといえば我が道を行くタイプのC君も、涙にくれるDちゃん(年少)と手をつなぎながら、「先生、ちょっと待って」といってカバンからティッシュを取り出し、涙を拭いてあげるのでした。
子どもたちは通園途上、その手を親でない他者と心を通わせ、つないで歩きます。他者を信じる心なくして手をつなぐことはできません。誕生からたった三年で集団の中で手をつないで登園できるのは、体力面での成長もさることながら、心の面での大きな成長のなせるわざだと思います。言うまでもないことですが、この心身の成長を育んでこられたのがほかならぬご両親ということになります。はじめて一人で歩けるようになった日を祝福してくれたのも、はじめて手をつないで歩く喜びを教えてくれたのもご両親でした。
どうかこれからもお子さまの心身の成長を心で願いながら、手をつないで歩くことを親子で楽しんで続けていただければと思います。大人の日常は「何かをしなければならない」義務の意識の連続ですが、わが子と手をつなぎ語らいながら歩くことはそうではありません。大人自身、心も体もリラックスし、おのずと心にゆとりが生まれるでしょう。このゆとりこそがご家族の笑顔の源であり、子どもの健全な成長の糧となるのだと信じております。
令和3年4月30日 園長だより