教育は思い出の種まきだと思います。
一つ一つの選択が、子どもにとっても大人にとっても、思い出の種まきになるでしょう。
絵本の読み聞かせは「大事だからやる」というより「やらずにいられない」ものであるはずです。
私は読み聞かせの価値は十二分に認めたうえ、もう一歩進んで次のようにも考えます。自著(『お山の幼稚園で育つ』世界思想社)から引用します。
絵本の読み聞かせについて思うところを述べます。
どの幼稚園にも保育園にも絵本はあります。ご家庭にもあるでしょう。私はよく自園の先生に、「絵本がなくても子どもたちに自分の物語を語ってください」とお願いしています。子どもたちは、先生自身の体験した話や思い出話をすると、目を輝かせて聞き入ります。
似た例として、「ピアノがなくても自分の好きな音楽を歌ってください」とお願いすることもあります。たとえば、大雨が降って、子どもたちと何もない場所で雨宿りをしなければならないとき、子どもたちとどのような時間が過ごせるでしょう?
子どもたちに伝えたいもの、語りたいものを持つ人は、絵本やピアノがなくてもそんなとき平気です。「平気ですか?」と私が尋ねて、「はい、平気です」と笑顔で言えるよう日頃からあらゆる準備のできる先生でいてください、というのが私が常々お願いしていることです。モノがあるから教育ができるのではなく、心があるから教育ができるわけです。お手本として思い浮かぶのは、『サウンド・オブ・ミュージック』のマリアさんでしょうか。
同じことはご家庭でも言えるでしょう。子ども時代は「モノより思い出」と言われます。たとえば長期休暇を前にして、様々な思い出作りの計画に余念がないご家庭もあれば、忙しくてそれどころではないというご家庭も様々でしょう。私はどちらであっても、親が子どもの未来に思いをはせる気持ちをもつ限り、子どもにとって最高の思い出の種まきはいつでも可能だと思います。
幼稚園では、お帰りの前に絵本を読みます。それが終わってハイさようなら、ではなく、子どもたちが余韻に浸っている時間帯に、先生から一言、心に残るメッセージを届けることができるよう、あわせてお願いしています。「今日先生は嬉しいことがあったの。それはね、~」といって、その日の印象的な場面(Aちゃんが困ったお友達を助けてあげた場面、などなど)を思い出し、子どもたちに語り掛け、クラスの価値観を共有できるように話ができると、日を追うごとに、クラスの一体感は高まります。
同様に、家庭における絵本タイムについても、読み終わってすぐにおやすみなさい、でもよいのですが、親として「嬉しかったこと」をなにか一つ語ることで、親子の絆はいっそう深まることでしょう。