春休みは「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)を読み返しています。「歩くことは楽しい」という趣旨のくだりを引用します。
入園前の保護者から、「うちの子は全然歩かなくて困っています。ここの幼稚園に入ったらちゃんと歩けるか心配です」と言われることがあります。私はいつも「心配ご無用です」と答えます。帰り道に疲れて居眠りした年少児を抱っこすることはありますが、「歩くのはいや」と言って駄々をこねるお子さんには今まで一度も出会ったことがありません。
親と一緒だとなぜ歩かないかといえば、歩かなくていい理由があるからです。抱っこと言えば抱っこしてもらえる環境にいるとき、子どもは自分から進んで歩きません。あるいは本当はたくさん歩けるのに、親が無意識のうちにブレーキをかけているケースもあります。たとえば日常が忙しいと、子どもは足手まといになり、ついつい子どもをせかすことが多くなります。そんな態度を示されつつ、いつも自分の動きを制止されたりせかされていると、子どもは歩くことがだんだん苦痛になり、「歩こう」と言っても「歩きたくない」となります。
生活習慣を一度に変えることはなかなか難しいのですが、いろいろ時間を工夫して、親子で散歩を楽しむ習慣をつくるのがベストです。便利で忙しい現代社会の中で、あえて「歩く」選択肢を選ぶことは簡単なことではありませんが、ほんの少しの不便を日々の生活の中に取り入れることは、人生を能動的に生きる上で大事なことではないかと思います。
大人の目で見ると、本園の歩いての登園は大変だと思われますが、子どもたちの本音は「こんなに歩けてラッキー」ではないかと思います。子どもたちは純粋に歩くのが好きです。そして、遠足のように友だちと手をつないで歩くのがうれしいのです。楽しみながら、人生の生き方の基本を日々養えるという点で、私はこれからも徒歩通園のスタイルを守っていきたいと考えています。